日常 23

「にしても、透花と花火行くんも、初めてやな。いつもいつも勉強ばっかで、あんま興味ない思うてたわ」


「そ、それはこっちのセリフよ。……来てくれて、あ、ありがと」



 耳まで真っ赤になった透花が、声を振り絞る。



「気にせんでええよ。こっちこそ、ありがとうな。ずっと研究やっとったら、逆に頭悪ぅなるばっかりやねん。たまには気分転換せなな」


「……そういえば、どんなの作ってるの? 私、まだ何も聞いてない」



 むっくりと小さな顔を上げた透花。天井を見上げると優斗の優しそうな顔が夕日に照らされている。



「せやな。まぁ、ちょうど試作三号機が出来たばっかりやし、今日はそれで花火見ようや」


「へ?」



 言っている意味が分からない。それで見る?



「今日は、最高の一日にしたるわ。それは保証する。でな、その前にちょっとお願いがあるんやけど」


「何?」


「なんや今年からお化け屋敷出来とったんや。来る途中見てしもうた。入りたいんやけど、一人じゃ怖くて……」



 お前もか。



「はぁぁん? お化け屋敷ィ? まぁ別にぃ? 私は構わないけどぉ?」



 さっきので自信がついたらしい。くるりと椅子を回転させて腕を組みながら優斗を見上げた。不敵な笑みで。突然高飛車のような性格になっている。



「さ、行くなら行こうよ」



 いつもメッセージをスルーされる恨みをここで晴らせる。そんな顔になっている。


 そして、わいわい騒ぎながらお化け屋敷に到着。


 さてさて。優斗を先に行かせようか。もうトラップの場所は分かってる。あとは優斗を怖がらせてやろう。優斗は何色の声で叫ぶのだろうか。楽しみで仕方ない。


 誰がどう見ても意地悪な顔をしている。いやらしい笑い声を、今にも可憐な顔から響かせようとしている。



「先に行ってよ。私は後ろからついてくるから」



 二人それぞれ料金を支払い、透花は言った。



「な、なんやねん……。余裕やな」


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