日常 11


「だいたい、グレる要素なんて、どこにあるの……」



 父も母も、とても尊敬できる人物。そのうえペットもいる。絵に描いたような幸せな家庭。付き合う仲間が悪いといえばそれまでだが、龍也はその事に全く気付いていない。という事は、結局のところ、彼は悪に憧れた中二病なのだろうか。



「……」



 朝から変な事ばかり考えていても仕方がないので、枕から離脱し階下に降りることにした。


 洗顔しよう。じゃないと一日が始まらない。


 透花はため息と共に立ち上がり、紫外線にてピンクゴールドに輝く黒髪を二つ結びするのだった。




 そういえば、だ。透花は庭に植えている花に水をやりながら、八つ時の空を見上げてふと思う。


 浴衣がない。レンタルしようにも、お小遣いが足りない。あまりにも突然すぎた。


 両親は朝早くから仕事に行っている。兄にも借りれない(というか借りたくない)。



「こんな事なら、一昨日ドーナツ屋さんに行くんじゃなかった……」



 これをダイイングメッセージにしようか。


 冗談はさておき。どうするか悩む。普通の服で行くか、それとも昨日知り合った葉月にお金を借りるか。


 ジョウロを置き、【葉月ちゃん……】とメッセージを送ったところで、ピタリとスマホを操る指が止まった。そういえば、お金は友情をぶち壊す魔力を秘めていると聞いたことがある。



【おはよー! よく眠れた?】



 思ったよりも早い返信でびっくりした透花は、慌ててスマホをジャグリングした。



【ぼちぼちでんなぁ】


【……なんで関西弁? まぁ、関西だけど。何か悩み事? 浴衣?】


【電話してもいいですか?】


【へい、かまーん】



 初めて教室で挨拶していた昨日に比べ、葉月はずいぶん、砕けた挨拶になった。いや、そんな事よりも……。


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