概要
疫病を背負った少女エスターは、本能のまま、薬草の捜索に野を駆ける。
隣国から亡命してきた少年カロは、自らの出生の謎を求めながら、薬草の秘密を暴く。
病の者たちの国を作ろうと画策する男グルーは、修羅の道を歩みつつも、薬草の行方を追う。
それぞれ時も場所も違う三人の冒険譚で構成される、疫病の特効薬である薬草の花を巡るストーリー。
いったい、この世界に救いの花は咲くのか。
そして何のために、誰のために。
これは、不条理と矛盾に満ちた人の生と死、そして希望の物語。
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!花
1996(平成8)年、らい予防法廃止。ハンセン病患者を強制隔離することが、法的効力を失った年。わずか26年前までは、本作に登場する『膿の病』に近似した患者へ、本作と同等かそれ以下の扱いが日本国内では合法だった。
本作ではその『膿の病』へ、ある特効薬が登場する。その特効薬は『呪われた』力によって効力を発揮するのだが、これが実に血にまみれた歴史に基づいている。が、ストーリーが進むにつれ事態は急転する。
作品もそんな風にアウトラインをなぞってゆけば、わりに平易な説明で終わるかもしれない。三部構成をとった本作もあらすじだけを読んだら「ふうんなるほどね」と。
でも、といいたい。
国語の…続きを読む - ★★★ Excellent!!!遠く小さい光に向かって、闇中を歩き続けた人々の物語
美しい物事を実現するため、醜いことに手を染めながらも這いつくばって前進していく、人間のリアルな姿を描いた物語。淡々とした俯瞰的な文が、逆に物語の彩度と没入感を高めていると思います。
治療薬が無く、発症した人体に触れれば感染する疫病がはびこり、罹患者は人と見なされない世界。そんな中、薬の元となる花が発見され、人や国家の行方が変わり始めます。花を見つけて薬が作られるまでの第一章、見え始めた希望が暗雲に閉ざされる第二章、か細いながらも確かな光が射す第三章。長い時間をかけ、生きるため生かすために走り、転んでも這って進んでいく人間の美醜が、丁寧に描き出されます。
すぐそばに人々の息遣いや足音を感じ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!その花は、国のためか人のためか。数多の思いを受け、長き時を咲き誇る。
長く疾病に覆われ続ける世界に、わずかに咲く、薬草となる花。
病に翻弄され、美しき花を巡る、三人の人物を中心とした物語です。
簡潔な文章なのですぐに読み終えられると思いますが、六万字ちょっとの中に、時を越える壮大な世界の物語が詰まっています。
まるで分厚い一大叙事詩を読み終えたような気分です。
余計な枝葉を削ぎ落としたからこそ、読者が想像をどこまでも広げられる作品だと感じます。
エスター、カロ、グルー。
三人の個性あるキャラクターが何を感じ、何を選択するのか。
悲しみと憎悪が覆う世界に、花がもたらすのは何か。
激動の世界の行方を、ぜひ読んで確かめてください。