遠く小さい光に向かって、闇中を歩き続けた人々の物語

美しい物事を実現するため、醜いことに手を染めながらも這いつくばって前進していく、人間のリアルな姿を描いた物語。淡々とした俯瞰的な文が、逆に物語の彩度と没入感を高めていると思います。

治療薬が無く、発症した人体に触れれば感染する疫病がはびこり、罹患者は人と見なされない世界。そんな中、薬の元となる花が発見され、人や国家の行方が変わり始めます。花を見つけて薬が作られるまでの第一章、見え始めた希望が暗雲に閉ざされる第二章、か細いながらも確かな光が射す第三章。長い時間をかけ、生きるため生かすために走り、転んでも這って進んでいく人間の美醜が、丁寧に描き出されます。

すぐそばに人々の息遣いや足音を感じながら、誰かのために花が開く最後まで、ぜひ読んでみてください。

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