宝石を通じて温かな愛が溢れ出す。純真な心と丹精な筆致が織り成す人情物語

 一話一話が人の愛に満ち溢れた作品。大切な人との輝かしく温かい日々、その人を喪ってしまった翳り、そして沈殿した悲しみが慰撫され、昇華されていく過程と心情描写がとても丹念に描かれています。それら全てを一点物の宝石として形作れそうなほどに。

 亡くなった人の魂を宝石にして、遺された人へと届ける見目麗しい宝石商、リコリス。彼女が現れると、遺された人々の止まっていた時間が動き出すよう。彼女が宝石の入った箱を開いて見せれば、遺された人々の心も開いていくよう。緩やかな停滞と再起して動き出し、彩られていく作中の流れが、まるで映像を見ているかのように美しい。緻密な彫刻をなぞっているかのようにも感じられます。
 遺された人々はいずれも、リコリスから明かされる依頼者の気持ち……亡くなった人の気持ちに触れると、強い悲しみで心が散り散りになってしまったり、行き場をなくした思いを暴れるままに発露させてしまったりします。けれどその強い感情、誰かを愛していたからこその激情に、リコリスは真摯に向き合ってくれるのです。一緒に過ごした日々の記憶が止めどなく溢れ、涙を流す時も傍らにもいてくれる。彼女も深く考え、言葉を選び、寄り添おうとしてくれているのだと、相手を見守る透き通った翠眼から伝わってくる心地さえしてしまいます。

 宝石を介して見えてくる人の心の美しさや温かさ、大切な誰かへ向けた想いを存分に堪能できる作品。隙間がないほどいっぱいに詰め込まれた、臆面のない深い愛情を全身で浴びることになるため、読む場所や時間などには注意すべきかと思います。涙が止まらなくなってしまうかもしれませんので……。
 一度踏み入れたのなら、ぜひ深くまで。余韻の終わりまで浸かってもらいたい作品です。

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