地獄の中で生きる人々はもがく。美しいものを知ってしまったが故に
- ★★★ Excellent!!!
凄惨な戦場や散らされる命、張り巡らされる陰謀が渦巻く戦時下の泥沼な地獄で、返り血を浴びないほどの絶技を持った美しい暗殺者が動いていた。暗闇しか知らず、故にこそ欠け知らずの美しい暗殺人形が。
帝国側の兵器にして、《死天使》の呼び名を持つ暗殺人形の少女・ナタリアは、命じられるままに標的を始末し暗躍していた。彼女はある時、共和国側にいる暗殺者、《死神》の呼び名を持つ青年・ライを始末すべく差し向けられ、実際に戦場でも会敵する。
それが、欠落の始まり。
心が分からないナタリア、かつては自分もその闇にいたライを始め、様々な人の思いや夢が交錯し、大切な何かをそばに置いて――けれど、多くは破れ壊れてしまう。離れていく。失われていく。美しいものを失い、それでも美しいものを見たいと願い、自分自身も削られ壊れていきながら、夜明けを信じて進む足を止めない、止められない。強くも悲しく、触れれば崩れそうなほど危うく柔らかい人々の姿が、染み入るように美麗かつ儚い文体で描き出されています。
たとえ、闇夜に壊れ消えてしまうとしても、亡骸を踏み越えて辿り着いた先が未明でも。生きた命の軌跡は、こちらの心に刻まれる。悲しくも愛おしい、忘れられない生命の透き通った輝きと罅の痕を、ぜひその目にも焼き付けてください。