行く先が夜の只中だからこそ、戦禍の最中で命は煌めく

 長らく続く戦争の中で、凄惨な戦場や散らされる命を目の当たりにしながら、張り巡らされる陰謀に翻弄されながら、己の行く道に迷い疑問を抱きながら、もがき生きる人々の姿を美しく描き出している作品。

 帝国側の兵器にして、《死天使》の呼び名を持つ暗殺人形の少女・ナタリアは、命じられるままに標的を始末し暗躍していた。彼女はある時、共和国側にいる暗殺者、《死神》の呼び名を持つ青年・ライを始末すべく差し向けられ、実際に戦場でも会敵するが――。

 心が分からないナタリア、かつては自分もその闇にいたライを始め、様々な人の思いや夢が交錯し、けれど多くは破れ壊れていく。大切な何かを失い、自分自身も削られ壊れていきながら、それでも夜明けへと進む足を止めない、止められない。強くも悲しく、儚い姿を、染み入るように美麗な文体がさらに際立たせています。

 たとえ壊れてしまうとしても、亡骸を踏み越えて辿り着いた先で、絶望に打ちひしがれてしまっても。生きた命の軌跡は心に刻まれる。悲しくも愛おしい、忘れられない生命の輝きを、ぜひその目にも焼き付けてください。

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