実家に戻って、お母さんとひと時を過ごそうっと

 夏休みの予定を決めて何日が経って、私達は私の家に行く身支度をして、雅華神社の大きな鳥居の前に立っていた。実家への帰省は、他の巫女さん達との帰省の日程の兼ね合いもあって、二泊三日が許されたの。


 一応私服は用意してるけど、華蓮にいる間は巫女としての格好を徹底なさいってことで、結局出るときはいつもの装束を着てるけどね。


「なんやろなぁ、ウチらが初めて会った時の場所ってここやったけど、つい最近に思えへんなぁ~」

「そうねぇ。色々あったもん。まだ三カ月ちょいしか経ってないのが不思議なくらいね」


 雅華神社の巫女としての修業は大変だし、仕事の方はもっと大変。でもそれ以上にやりがいを感じていたからかな。だから睡蓮ちゃんの言っていることはよく分かる。意外と短い筈の時間がすっごく濃厚で、長く感じるわ。


「じゃあ睡蓮ちゃん、私の故郷を案内するわ」

「お願いしますぅ~沙綾ちゃん」


 という訳で、私達は雅華神社の前に止めた馬車に乗り込んだ。



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 私の実家は、華蓮からちょっと離れた与那真村よなまむらっていう農村にあるの。そこは山と森と川に囲まれた落ち着いた村で、人口も1000人を下回ってるの。


「久しぶりだわぁ~。風の香りも、景色も……」

「ええ匂いやわぁ~。こんな匂いは華蓮だと嗅ぐことは出来んわ~」


 馬車に揺られて村に辿り着いた私は、久しぶりの故郷の景色に懐かしいって思いを抱いたわ。つい三か月前までは当たり前の光景だったのに、離れている間に鋼も懐かしいって思うのは自分でもびっくりだった。


「さて、早速家に戻らないと……」


 そう言いながら、私は家路をゆっくりと歩き始めた。私の家は田んぼと田んぼの間を通る長い道の先、木造の平屋なの。


「沙綾ちゃんって、きょうだいとかおるん?」

「ううん、一人っ子。お父さんとお母さんと三人暮らし。でもこの季節はお父さんいないかなぁ」

「お父さんって何をしとるん?」

「倭国の西の海で漁師をしてるの。だから帰ったらお父さん宛てに手紙を書かないとって思ってるの」

「そうなんやぁ~」


 そう言って睡蓮ちゃんはコクコクと首を縦に振った。

 

「あ、あそこが私の家よ」


 そう言いながら私は、見慣れた木造の一軒家を指さした。そして家の前ではお母さんが長い黒髪をお団子のように纏めて、着物の上に割烹着を着て箒で道の掃除をしていた。


「お母さぁ~ん!」

「あらあら、沙綾っ!」

「ただいまっ!」


 と、私はお母さんを見つけるや否や、飛び込むようにお母さんに抱き着いた。


「手紙は読んだわ。頑張ってるみたいねっ!」

「巫女として、早く一人前になんないといけないからねっ!」

「まぁ、ふふふっ」


 微笑みながら私の頭を撫でてくれるお母さん。


「それで、その子があなたのお友達の……」

「はい~。九条院睡蓮と申しますぅ~」

「九条院ってことは、あの九条院財閥のお嬢様ってことよね? まぁまぁ、立派な女の子ね~」

「いえいえ、そんなことはありませんよぉ~」


 と、睡蓮ちゃんはお母さんに微笑みながらそう言った。


「うちの娘がいろいろとお世話になっているみたいね」

「いえいえぇ。うちも沙綾ちゃんには結構助けられとるんですぅ~」

「そう、ちょっと見ない間に立派になったわねぇ~。お母さん嬉しいわ」

「ふふっ、ありがとう、お母さんっ!」


 と、私はお母さんの胸に思いっきり顔を埋めた。懐かしく、そしてとっても優しい香りがした。


「じゃあここで立ち話もなんだから、うちに上がって頂戴」

「うん」

「お世話になるます~」


 そう言いながら私達は家に入った。


「ごめんなさいね。ちょっと汚いところで……」


 放棄を玄関の横に立てかけながら、睡蓮ちゃんに申し訳なさそうにそう言ったお母さん。


「そんなことありませんよぉ~。うち、こういうお家で一度暮らしてみたいなぁ~って思っとったんですぅ~」

「まぁまぁ、そう言ってくれると嬉しいわぁ‼」


 と、お母さんはただでさえよかった機嫌が更によくなった。


「じゃあ、今日のお夕飯は娘の為にも、睡蓮ちゃんの為にもご馳走にしなきゃ~」


 そう言いながらお母さんは、まるで踊るかのような軽快な足取りで厨房へ向かっていった。


「……なぁ沙綾ちゃん」

「なぁに?」

「沙綾ちゃんのお母さんって、めっちゃ表情豊かなんやなぁ」

「あはは……でも、私にとって自慢のお母さんよ」

「うんうん、それは沙綾ちゃんを見ててすっごく分かるでぇ~」


 そう言いながら睡蓮ちゃんは私の右肩にこつんと頭を乗せた。


「どうしたの?」

「なんや、羨ましいわぁ~」

「羨ましいって?」

「こういう生活。うち、厳しく育てられてきたから、こういうあったかい家庭に憧れてるんよぉ~」

「そういう気持ちも感じる余裕がなかったの?」

「そういう訳でもないんやけどぉ、なんやろぉ……普通の家の女の子って言うのにも憧れてるんよぉ~」

「そっか……じゃあ今日から一週間は、私と普通の女の子の生活をしてみよ」

「うん……」


 そう言いながら私は、腕に抱き着いてきた睡蓮ちゃんと一緒に私の部屋に案内した。


 




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