呪術の成果、成長の跡が見える!

 任務を拝命したことと、愛梨様と姫華様の任務の時間もあって、この日中断された呪術の成果の確認は、任務の準備と並行して明日に短い時間だけ確保して行われることになった。


「それにしても、まさか睡蓮ちゃんの実家で任務なんて、結構びっくりだね~」

「そやなぁ~……」


 なんだか不安そう、って言うか間違いなく不安だぁ~ って言わんばかりの睡蓮ちゃん。お部屋に戻ってからずっとこんな感じだけど、大丈夫かなぁ?


「睡蓮ちゃん。不安なの?」

「えっ?」


 身体をビクッてさせた睡蓮ちゃん。図星なのかな......?


「ないってゆうたら嘘になるかもなぁ……」

「そう思うんだ……」

「でも、未熟とは言え、うちも雅華神社の巫女や。どんなことがあっても、挫けたりしたらあかんわぁ」


 いつも通りはんなりな態度の睡蓮ちゃんだけど、不安そうな表情は変わってない。相当に厳しいお母さんって言ってたけど、やっぱりそれが不安なんだろうなぁ……。


「明日は呪術の成果を見せるんやし、そこで少しでも自信をつけられたらええとは思うけど……」

「睡蓮ちゃん、ずっと頑張ってたもんね。修行」

「姫華様と一緒にやって、前よりは上手くやれるようになっとるって思いたいけど」

「じゃあ、明日に備えて、今日はゆっくり休もう」

「そやなぁ」


 というわけで、私達はそのまま夕食を取って一緒にお風呂に入って、いつものように二人並んで寝た。明日の成果発表と明後日の任務へ備えてね。



⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶


 次の日。午前中に姫華様と愛梨様から時間をいただいて、改めて私達は本殿で呪術の稽古を始めることになった。


「睡蓮ちゃんは霊力の取り込み量が桁外れな分、細かな制御に難があるのが課題だったわね」

「そうですぅ」


 睡蓮ちゃんは自信なさげに愛梨様の質問に答えた。


「沙綾ちゃんは霊力の取り込み自体は平凡だけど、制御技術では上回ってるわね」

「はい。でも威力が高いって訳ではないので、そこがちょっと気になりますね」


 次に姫華様の確認に答えた私だけど、入ったばかりの頃と今とで練度で違いが出てると思う。


「涼音様と恋様から聞いていた頃から考えると、今の睡蓮ちゃんは引き続き霊力制御に力を入れて、沙綾ちゃんは高い制御力を生かしつつも、一撃の威力にも注力してたのね」


 愛梨様からそう言われ、私と睡蓮ちゃんは同時に頷いた。


「じゃあ、これから準備する的に向かって、得意な呪術を当ててごらん」

「はいっ!」

「了解ですぅ〜」


 愛梨様と姫華様はすぐさま本殿内の倉庫から遠距離攻撃練習用の鋼鉄の的を用意してしてくださった。


「最初は睡蓮ちゃんからやってごらん」

「分かりました〜!」


 姫華様に答えつつ、睡蓮ちゃんは手元に霊力を集中させ始める。


「行きますぅ〜!」(水砲弾すいほうだん‼︎)


 そして集めた霊力を巨大な水の塊に変換し、砲弾のように発射して鋼鉄の的を木っ端微塵に破壊した。


「凄い破壊力……!」

「威力は桁外れねっ!」


 愛梨様と姫華様は口に手を当てて驚かれていた。


「はぁぁ〜。霊力集めるんで精一杯やったわぁ〜」


 だけど、当の睡蓮ちゃんはちょっと項垂れている。どうしてだろう?


「でも威力はすごいよ! いつも一緒に修行してるから思ってたけど、こうやって見るとやっぱり破壊力はすごいよ!」

「でも何発もは無理やでぇ〜」


 と、睡蓮ちゃんはあんまり嬉しくなさそうだった。


「じゃあ次は沙綾ちゃん、やってみて」

「はいっ、愛梨様っ!」


 次は私の番、目の前には七つの的。集中して手元に集めた霊力を、的と同じ数の小さな火の玉に変換して私の周囲に配置する。


「行っけぇ!」(火球乱舞かきゅうらんぶ!」)


 全ての火の玉を霊力で制御し、それぞれの的の中央目掛けて発射した。


 制御とはちょっと難しいけど、今の私なら出来る! これまでの修行の成果を発揮するんだ!


「今よ!」


 全ての火の玉の速度を上げ、一気に的の中央に着弾! 当たった部分は橙色に輝いて少しだけ溶けた。


「上出来ね。狙いも制御も文句なし」

「細かな技術の向上の跡が分かるわね」


 睡蓮ちゃんの時と同じように、姫華様も愛莉様も褒めてくださった。嬉しい!


「やっぱり沙綾ちゃんは凄いわぁ〜。ウチなんてまだまだやなぁ〜」

「ううん。睡蓮ちゃんも自分の技の凄さにもっと自信をもっていいわよ」


 そこで姫華様が睡蓮ちゃんの隣まできて、肩を抱いた。


「睡蓮ちゃんは基礎的な技術が向上してるわ。だったら、あなたの攻撃呪術は、一撃必殺を軸に考えてみたらどうかしら?」

「一撃必殺?」

「うん。連射とかはこれからの経験と修行でいくらでも伸びるから、今のところ呪術は一撃必殺を武器にしたらいいんじゃないかしら? 薙刀の腕前はしっかりあるんだし、接近戦がそれを頼りにしてみたら?」

「一撃必殺の呪術、かぁ......」


 姫華様の提案に、少し考える素振りを見せる睡蓮ちゃん。


「逆に沙綾ちゃんは、細かな呪術行使の技術は卓越してるけど、一撃では睡蓮ちゃんに劣るわ」

「そうなんです。睡蓮ちゃんみたいな威力はどうしても出なくて……」


 と、愛梨様のもっともな指摘を受けて悩みを打ち明ける私。


「沙綾ちゃんは霊力制御と呪術行使の技術が凄く高いから、その器用さを活かせばいいんじゃないかしら? 武器装填の技術もいいし」

「器用さ、ですか?」

「ええ。睡蓮ちゃんの攻撃呪術が一撃必殺なら、沙綾ちゃんは状況に応じた臨機応変な呪術行使に重きを置いてみたらどうかしら? 個人で戦うのも周りと連携するのも自由自在よ」

「その代わり決定力がないから、それを睡蓮ちゃんが担当するといいわ。お互いの長所を活かし、弱点を補い合う。しばらくはそうやって活動してみたらどうかしら?」


 愛梨様の説明を引き継がれた姫華様の提案に、私も睡蓮ちゃんと同じように悩んだ。でも、それなら……。


「ええかも知れへんなぁ」


 と、睡蓮ちゃんが口を開いた。そしてその意見は、私も同じだった。


「私も、それでやってみようと思います!」


 そんな私達を見て、姫華様と愛梨様は微笑んだ。


「じゃあ二人共、ここからは稽古に入るわよ!」

「今私達が言ったことを意識してやってみてごらん!」

「「はいっ!」」


 それから私達は二時間、みっちり呪術の稽古を行って明日に備えた。

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