こ、ここが睡蓮ちゃんの実家なの……?
翌日の午後六時過ぎ、準備を整えた私達は、愛梨様と姫華様と一緒に睡蓮ちゃんの実家にやってきた。
「こ、ここが睡蓮ちゃんの実家なの……?」
「そうやで」
流石は九条院財閥の令嬢の邸宅ね……。黒い門をくぐって最初に見えたのが銀色の
それだけもすっごい立派なんだけど、それ以上に驚かされたのはお庭なの。なんだか、お庭だけでも雅華神社の十倍以上の広さはありそうな感じだわ。って言うか、お庭の中央にすっごい大きな噴水があるし、花壇だって多分倭国中で咲いているお花が全部育てられてるだろうしで、色々と規模が違い過ぎて頭の中が混乱しそう……。
「まぁ、そういう反応になってまうわなぁ。初めての人は」
「予想以上の大きさだったんだもん……」
住人の睡蓮ちゃんにとっては普通だけど、庶民の出の私からすると、まるでお城に来たような感覚に陥っちゃってるわ。
「私達の今回初めて来たけど、ちょっとびっくりね〜」
「でも、私と愛梨が一緒に住むとしたらこんな家がいいわ〜❤️」
「そうね〜❤️」
こういう時でも愛梨様と姫華様はいつも通りなんだ……まぁ、慣れたけど。
「そういえば、お姉さん達もいるんでしょ?」
「そうなんやけど、うちが巫女になったのと同じ頃に華蓮の寮付きの学校へ入学したから、今はおらへんよ」
「それよりも、早う行きましょう。お母様をお待たせしたらあかんですし」
睡蓮ちゃんに促され、私達は屋敷の前までやってきて、玄関の両脇に侍している二人の女性の近衛兵に挨拶した。
「「お待ちしておりました。睡蓮お嬢様、そして雅華神社の巫女様」」
と、二人の武装した近衛兵の丁寧な挨拶に、睡蓮ちゃんは軽く右手を上げて応え、私達は深々とお辞儀をした。
「総裁は既に総裁執務室で、皆様をお待ちしております」
「分かったわ、おおきに。じゃあ皆さん、うちが案内します」
と言うわけで、私達は睡蓮ちゃんに案内され、九条院財閥総裁のいらっしゃる応接室まで向かうことになったの。
⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶
総裁執務室は屋敷の八階の中央からも手右手の奥にあった。睡蓮ちゃんは部屋の前の木製の扉まで来ると、はぁ、っと深呼吸を一つした。
「どうしたの?」
「ううん。久々にお母様にお会いするから、緊張してもうて……」
そういえば睡蓮ちゃんのお母さんって厳格な方って聞いたことがあるけど……。
「睡蓮ちゃん。今は雅華神社の巫女なのよ?」
「そうよ。親子としてではなく、依頼人と巫女って関係性で接するのよ?」
と、そこで愛梨様と姫華様が睡蓮ちゃんを諭した。
「そうでした……気を取り直さなあかんっ」
睡蓮ちゃんは自分に言い聞かせるように言いながら、軽く自分の両頬を両手でパンパンっと叩いた。
「よしっ。行きます」
決意の表情になった睡蓮ちゃんは、木製の扉を四回コンコンっと叩いた。
『お入りくださいぃ』
中から厳格なピンッと張り詰めたような妙齢の女性の声が聞こえてきて、睡蓮ちゃんは一瞬ビクって身体を震わせた。
「睡蓮ちゃん?」
「大丈夫やで」
私に微笑む睡蓮ちゃん。やっぱりお母さんに緊張してるんだ……。どんな人なんだろう?
そう思ってると、意を決した睡蓮ちゃんが扉を開け、私達の先陣を切って中に入り、私達もそれに続いた。
「お待ちしておりました。雅華神社の皆様。忙しゅう中、ありがとうございますぅ」
木製の大きな机の前に立っていたのは、紫を基調として各所に金の装飾をあしらった豪奢な着物に身を包んだ妙齢の女性だった。そっか、この方が睡蓮ちゃんのお母さんなんだ……。
でも、ちょっと言葉の発音に、睡蓮ちゃんっぽいはんなりな訛りがある。
「雅華神社から来ました。青龍山愛梨と申します」
「同じく、白虎谷姫華です」
愛梨様と姫華様はそう言いながらお辞儀をして、私達もそれに倣ってお辞儀した。
「九条院財閥総裁の、
総裁はそう仰りつつ、私達にお辞儀をされた。
「そちらのお嬢さんは?」
「は、はいっ! 深山沙綾と申します!」
緊張しながら答えた私。ううっ、総裁の紫色の瞳、目元の鋭さもあって凄い眼光を放ってるように見える……。
「睡蓮、久しいなぁ」
「はい、お母さ、いえ、総裁」
言い直した睡蓮ちゃん。総裁は言い直しに関しては特に何も仰らずに静かに頷き、私達に部屋の中央の座席に座るように手招きをされた。
「早速伺いたいのですが、宜しいでしょうか?」
「どうぞ」
私達と一緒に席に座りながら、棚から紅茶入れとお茶請けのお菓子を取り出す総裁に尋ねる愛梨様。
「ここ最近、この邸宅から溢れ出る邪気について、詳細をお話しいただきたく思います」
「邪気が溢れ出てきおったのは二週間前。倭国、特に華蓮では秋から冬の時期に各地で邪気が出やすいのはご存知の筈ですぅ。それが屋敷内に出てきました」
そう仰りつつ、私達に紅茶をお出しになられて席に腰を下ろされる総裁。
総裁の仰る通り。倭国では冬の時期になると、寒さに釣られて地中の邪気が各地で溢れ出るようになるの。これは倭国周辺で見られるもので、他の地域では極端な暑さで出てくる場合もあったり、季節の変わり目に大量噴出する場合もあるの。
邪気っていうのも、地域や気候に影響されて強弱や出現時期が違う。倭国の場合、一番強い邪気が出てくるのは秋から冬の時期なの。
「これまで財閥で雇っていた呪術師達が封印をえろぉ頑張ってくれはったんですが、今回は彼女達の力を持ってしても消滅できず、負傷者が大勢出てしまいました」
「それで、私達の力が必要になったんですね?」
姫華様の問いかけに、総裁は静かに頷かれた。
「邪気の出現場所はわかりますか?」
「東棟と西棟、南棟の三箇所で確認されたとのことです。ただ、強弱はあれど、どこから邪気が発生するのかは予想できないと、呪術師達が言っていました」
「そうですか……」
と、姫華様は頷かれた。
「今回の邪気は今まで我が家に出てきたものよりも強力なもんですので、くれぐれも対処にはお気をつけていただきと思いますぅ」
「ご安心下さい。邪気祓いは専門分野の一つです。お力になりましょう」
と、愛梨様は微笑みながらそう仰られた。
「ありがとうございますぅ。邪気の出現時刻はだいたい深夜を回った頃でしょう。どこに現れるかは分からないので、屋敷全体を見ていただけると幸いです。屋敷内のことについては、睡蓮に聞いてただければ分かりますぅ。睡蓮」
「は。はいっ!」
総裁に呼ばれ、ちょっと慌てながら立ち上がった睡蓮ちゃん。
「頼んますよ」
「か、畏まりましたっ!」
と、冷や汗をかきながら応えた睡蓮ちゃん。相当肩に力が入ってるみたい。
「皆様には、五階のお客様専用のお部屋をご用意しました。邪気を払っていただけるまで、お使いいただきとぉ思います。案内は睡蓮にしてもらいます。食事やその他一切の家事は、うちの家政婦達がやってくれますので、心配は無用ですぅ」
「色々とありがとうございます」
と、愛梨様に続き、私達は頭を下げた。
「睡蓮。案内してくれる?」
「分かりました。では総裁、うち、いや、私達はこれで失礼します」
睡蓮ちゃんはそう言いながら席を立ち、私達は総裁室を出た。
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