第5章 睡蓮ちゃんのお母さん登場!

新しい任務って何だろう?

 夏休みが明けてから二ヵ月。私と睡蓮ちゃんは巫女としての仕事と並行して武術や呪術の修業に打ち込んでいる。


 この日も私は、私達の為に時間を割いていただいた愛梨様と姫華様の立会いの下、睡蓮ちゃんと一緒に雅華神社の本殿で、武術の稽古をしていた。


「はぁ!」


 一気に睡蓮ちゃんの懐に飛び込みながら竹刀で袈裟斬りを繰り出す私。


「させへんでぇ~!」


 それを睡蓮ちゃんはさらりとかわして修行用の木製薙刀の柄で私の脚を引っかけようとするけど、私はそれを軽く飛んでかわし、背後を取って二ノ太刀を繰り出す。


「そんなんでうちには勝てへんのは知っとるやろぉ~!」


 薙刀の柄を背後にして私の斬撃を防ぐ睡蓮ちゃんだけど、そこで私は蹴りを繰り出して逆に睡蓮ちゃんの脚を掛けようとする。


「しまったわぁ~!」


 そう言いながら睡蓮ちゃんは私の竹刀を横胸にパチンッ、と食らってしまった。


「負けてもうたわぁ~」

「ふふっ、少しは武術も成長したでしょ?」

「せやなぁ~」


 そう、私は武術の方で睡蓮ちゃんに後れを取ってた。でも夏休み明けから睡蓮ちゃんと一緒に修業をしていって、彼女との差を埋めることに成功したの。


「なんか沙綾ちゃん。めっちゃ強ぅなったなぁ~」

「睡蓮ちゃんに負けたくないもん。武術でも呪術でもね」

「なんやろぉ~。どんどん沙綾ちゃんとの差を付けられてるなぁ~」


 と、ちょっと悔しそうにほっぺを膨らます睡蓮ちゃん。態度は相変わらずのほんわかな感じだけど、夏休みの時の経験もあって、前よりも向上心が強くなってる。


「二人共、とっても強くなったわね~」

「うん。強くもなってるし、可愛らしさにも一層磨きが掛かってるわね」


 姫華様と愛梨様のお墨付きが貰えて、私はすっごく自信が持てた気がした。


「それじゃあ、次は呪術の稽古をしてみましょう」


 と、ここで涼音様がパンパンッと手を叩いて私達に声を掛け、互いに武器を横において呪術発動の準備を始めた。その時なの。


「すいません、沙綾ちゃんと睡蓮ちゃんはいるかしら……って、涼音様っ!」

「構わないわ。入っていいわよ」


 急に道場に入ってきて、涼音様の姿を捕らえて戸惑う巫女さんを、涼音様は微笑みながら受け入れた。


「神主様からあなた達をお呼びになられてるの。これから神主様の執務室に行ってきてね」

「はいっ!」

「了解ですぅ~」


 巫女さんにそう言われ、私と睡蓮ちゃんは稽古を中断して本殿を出て行ったの。



⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶


「九条院財閥から、邪気退散の依頼ですか?」


 執務室に来て挨拶を済ませ、神主の彩芽様からの依頼を聞いた私はちょっと驚いた。まさかの依頼主が睡蓮ちゃんの実家なんだもん。


「そうっ! 君達って、ここ最近結構修行の成果も出てるし、依頼内容を考えると、九条院財閥に詳しい身内の子に行ってもらうのがいいかなぁって思ってね」


 と、神主様ははきはきした態度でビシッと私達を指さしたけど、正直まだ二人だと不安だなぁ……。


「おやおや沙綾ちゃん~。私なんだか不安だなぁって顔してるねぇ~」

「えっ、えっ? 顔に出ちゃってましたっ⁉」

「めっちゃ出てたよぉ~❤」


 ううぅぅ~。やっぱり顔に出ちゃってたぁ~。


「安心して。君達だけじゃないわ。今回の任務には姫華ちゃんと愛梨ちゃんにも同行してもらうわっ」

「お二方人もですか?」

「あの二人はあなた達に呪術の稽古を付けてくれてたでしょ? それにあなた達のことを後輩として結構気に入ってるって言ってたし」

「そうですか……ちょっと安心しました」


 と、私は心の底からほっとした。けど、隣の睡蓮ちゃんはちょっと違っていたわ。


「あら? 睡蓮ちゃんどうしたの?」

「あぁ~……何と言ったらええんですかなぁ~?」

「実家だから気を楽にできると思ってたんだけど、違ったかな?」

「そ、そうですなぁ~」


 と、口元を波みたいにもごもごさせながらそう言った睡蓮ちゃん。


「九条院財閥の総裁は確か、睡蓮ちゃんのお母さんだったね。まだ未熟な自分がこんな形で実家に行くのは気が引ける。そう思ってんのかな?」

「うぅぅ~。神主様には何でもお見通しですわぁ~」


 観念した様子の睡蓮ちゃん。そっか。厳しい実家だからこその不安って言うのがあるのか……。


「それでも、こういう仕事をこなしていかないと、雅華神社の巫女として一人前にはなれないよ?」


 そう言いながら神主様は席を立って睡蓮ちゃんに歩み寄って肩に手を置く。


「それでもイヤ?」

「そ、そないなことはありませんっ! 巫女としての仕事はしっかりとやりますっ!」

「よろしいっ! それでこそ雅華神社の巫女よっ!」


 と、神主様は睡蓮ちゃんの背中を優しくポンッと叩いて激励したわ。


「愛梨ちゃんと姫華ちゃんには既に話を通してあるから。出発は明後日になるから、それまでの間に準備はしっかりしといてね」

「了解ですっ!」

「了解ですぅ~」


 という訳で、私と睡蓮ちゃんは九条院財閥本部。つまり睡蓮ちゃんの実家への邪気退散任務を拝命することになったわ。

 

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