第3章 対照的な巫女関係

雅華神社の風紀係さん

 六月、それは倭国では梅雨の季節。首都の華蓮でも、しとしとと雨が降り注ぐ時期になっていたわ。


「はぁ~……」


 午前中の巡回を愛梨様と終えた私。雨の中であっても巡回だけは傘を手に行わなければならない。雨が降るだけならまだしも、湿気が凄くて髪を纏めるのも大変。


「うううっ、湿気ばかりで辛いわぁ~」


 珍しく睡蓮ちゃんも湿気にやられちゃってるみたい。


「大丈夫? 睡蓮ちゃん」

「ちょっとあかんわぁ~。髪が湿気で大変なことになっとるし、じめじめしてて装束が肌に張り付いてちょっと気持ち悪いしで、沙綾ちゃんは大丈夫なん?」

「私も大変かも」

「やっぱり梅雨の季節はなかなか慣れへんわなぁ~」

「確かに……って⁉」


 話しててたった今気づいたけど、睡蓮ちゃんの装束、特に白衣のとこ、湿気と雨水でちょっと透けてて、その、色々と……。


「睡蓮ちゃんどないしたん? 急に驚いとるけど」

「す、睡蓮ちゃんったら、分からないの?」

「分からないって、何が?」

「よく見てよ、白衣のとこを……‼」

「白衣のところ……あれまぁ」


 ようやく気付いてちょっと頬を紅く染めた睡蓮ちゃん。雅華神社の巫女達は下着はふんどししかしないから、上半身の方は透けると色々とイケナイものが見えちゃうの。だから私も気を使って湿気にやられないようにしてたんだけど、睡蓮ちゃんはその辺をあんまり心掛けてなかったみたい……。


「言ってくれてありがとうなぁ~。これからは気を付けるわぁ~。このまま透け透けなのも品がないし、確かにちょっとハズイし」

「めっちゃハズイよ。これ。とりあえずお風呂入ってから新しい装束に着替えよう」

「せやなぁ~」


 そう言いながら私と睡蓮ちゃんは寮に戻ろうとしたんだけど……


「こらっ‼」

「ひぃ‼」

「はぃ~?」


 右手の方から鋭い女の人の声が入って来た。振り向いてみると、腰まで届く真紅の髪と、水色の透き通った瞳を持った白い肌の綺麗な巫女さんが、ちょっと眉間に皴を作りながら私達の方へ向かっていた。


「そこの黒髪の子」

「うちですかぁ~」


 真紅の髪の巫女さんに声を掛けられたのは睡蓮ちゃんだった。


「もうちょっとシャキッとなさいっ‼ 雅華神社の巫女としての威厳が見に付かなくなるわよっ⁉」

「シャキッと、ですかぁ~」

「その気の抜けた声も、少し改めなさいっ!」

「気を付けますぅ~」

「それと、その装束もなんとかなさい。透け透けで色々見えてるわよ」

「これからお風呂入って着替えてきます」

「宜しい」


 畳みかけるように仰った巫女さん。何か今までお会いしてきた巫女さんとは一線を画する厳しさがあるわ。


「あ、あの、初めてお見掛けすると思うのですが……」

「ああ、そうだったわね。私は間宮まみやあかね。雅華神社で風紀係を務めてるわ」

「風紀係?」

「雅華神社の巫女として、だらしのない態度をとっている巫女達を取り締まる仕事をしてるの。人事の関係で、私を含めて三人しかいないけどね」

「そんな係があるなんて……」


 腰に手を当てながら説明されたあかね様には、確かに雅華神社の巫女としての威厳があった。それこそ、私が一番最初に思い描いた印象に思えた。


「雅華神社って、神主様を筆頭として結構型破りな人が多いでしょ? 確かに仕事は出来るし、私も尊敬してるけど、日頃の生活態度が色んな意味で乱れてる方が多いの。それを改める為に、私のような巫女が内勤をしてるの」

「雅華神社の巫女にも、内勤ってあるんですか……」

「巫女としての仕事は、何も街の治安維持だけじゃなくて、神社の会計事務や総務事務っていうのもあるの。そしてその中に、私達風紀係って言うのもいるのよ。何でもかんでも神主様が決裁をされている訳じゃないのよ。だから私達のような内勤担当の巫女もいるのよ」

「そうだったんですか……」


 あかね様の説明に納得した私。確かに、雅華神社だけでも巡回以外の仕事はたくさんあるから、内勤の人手が必要なのはわかる。しかも神主様は系列神社の報告書の処理もしなきゃいけないみたいだから、助けてくださる人がいないと相当に大変だ。


「っと、それよりも早く着替えに行ってらっしゃい。これ以上装束が透け透けになったらとんでもないことになっちゃうわよ」

「はいっ!」

「はい~!」

 

 あかね様にそう言われ、私達は急いで寮に戻ったわ。

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