呪術を扱うのって、やっぱり大変なんだなぁ~

「基本的なことは分かってるわね?」

「「はい」」


 私と睡蓮ちゃんは同時に頷いた。霊力とは、自然界に巡っている霊気の源のこと。これを扱うには、まず瞑想で霊気を知覚できるようになる必要があるの。

 

 知覚できるようになったら、その流れを掴んで自分の中に取り込むことで霊力へと変換するの。霊力はそのままでも物を動かしたり操ったりできるし、ここから呪符を使ったり、印を結ぶことで、呪術として行使することが出来る。その呪術も、攻撃呪術や治癒呪術、更には封印呪術と、軽く挙げただけでも多種多様で、その理論を頭に叩き込むだけでも本当に苦労したわ……。


「基本となる攻撃呪術には、火・水・風・雷の四つの基本属性が一番扱いやすいとされているわ。そして個人差でどの属性が扱いやすいかってのも、もう各地の神社で把握してるわね?」

「はい。私は火属性が扱いやすいと言われました」

「うちは水属性が、一番伸びしろがあるって言われましたわ~」

「じゃあ、これから基礎呪術をここでやってもらうわ」

「「はいっ」」


 恋様の指示の下、私と睡蓮ちゃんはまず、霊気の流れを読み取り始めた。


「……あれ?」

「なんやろ、めっちゃ霊気の流れが分かりやすいわぁ~」

「ふふっ、この装束が効率的な霊気の取り込みと霊力・呪術行使の為に作られてるってのは、もう知ってるでしょ? その効果を今、あなた達は味わってるのよ」


 恋様に指摘され、私は納得した。理屈の上では、霊気の取り込みは露出度が高ければ高い程上がる。胸の谷間やらお腹が丸出しで、緋袴も横にお尻や脚ががっつり露出する程の切れ込みが入ってるのはこの為みたいなの。理屈では知ってたけど、ここまで凄いとは予想外だったわ。


「極端なことを言えば、裸でやってもらうのが一番だし望ましいんだけど……」


 恍惚とした表情で説明した恋様だけど……。


「そ、それはちょっと……」

「素っ裸はハズイわなぁ~」


 この点では私も睡蓮ちゃんも同意見ね。


「恋、こういうときくらいは欲望を抑えてくれるかしら……」

「後で私のこと、癒してくれるんだったら我慢するわ~❤」


 恋様ったら、こんな時まで……って、それよりも霊気の取り込みと操作を行わないと。やっぱり、この装束って凄い。霊力操作もやりやすい。


「取り込みだけじゃなく、霊力操作も行いやすいように呪術が付与されているのよ。呪術は先手必勝が大事だから、操作が行いやすくなれば発動速度も上がるわ」

「確かに、ではいきます‼」


 私は霊力を操り、火の基礎呪術・火閃ひせんを発動させた。手元で小さな火の玉を発生させ、掌で維持させた。全く崩れていない、とっても綺麗で完璧な真ん丸火の玉。


「筋がいいわね~! 入社してからすぐにこの水準の呪術を発動できるんだったら、すぐに応用に入れるわね」

「それに対して睡蓮ちゃんは……」


 そのまま私が睡蓮ちゃんの方を見ると、手元で大きな水を球状に生成する呪術・水泡すいほうを発動してたんだけど、ちょっと形がいびつで不安定だった。


「ううっ、操りにくいわぁ~」


 涙目になってる睡蓮ちゃん。確かに呪術は苦手って言ってたけど、これだけ大きな水玉を生み出せるだけでも凄いよ……。


「あ、あかんっ!」


 その瞬間、水玉は完全に形を崩し、そのまま目の前に落下して大きな水たまりを作り、睡蓮ちゃんもずぶ濡れになってしまった。


「睡蓮ちゃんっ‼ 大丈夫っ⁉」


 私は慌てて呪術を取り消し、睡蓮ちゃんに駆け寄った。


「大丈夫やで沙綾ちゃん、あんまり近寄ると沙綾ちゃんまで濡れてまうで~」

「うん、でも早くあっためないと風邪ひいちゃうよ……」

「その心配はないわ」


 すると恋様は、涼音様とお互いを見合って頷いた。


「はぁ!」

「えいっ!」


 直後、恋様は風を、涼音様は手元で暖かい空気を発動して睡蓮ちゃんを包み込み、あっという間に足元の水を蒸発させ、装束まで乾かしてしまった。


「す、凄いわ……」


 一瞬でここまでやってしまったお二人に、私も睡蓮ちゃんもびっくりした。


「ちなみに私は水と雷の呪術を、涼音は炎と風の呪術を攻撃呪術として扱えるわ」

「確か呪術って、修業次第では最低でも二つは操れるんですよね?」


 私の質問に、恋様は微笑みながら頷いた。


「沙綾ちゃんは武術の方はこれからだけど、呪術の扱いはかなりうまいわね」

「対して睡蓮ちゃんは、霊力の取り込みは沙綾ちゃん以上だけど、取り込んだ霊力が多すぎて操作が追い付かない感じね。霊力の取り込みは個人差があるから、多量の霊力を取り込める人は操作の方を鍛えないと難しいわね」


 涼音様と恋様の指摘は的確で、睡蓮ちゃんも私も納得していた。


「そう言えば睡蓮ちゃんは九条院の家系だったわね?」

「はい~」

「そう言えば、見境町にある雅華の系列神社の神主様の名字も、確か九条院だったから……」

「そこの神主様も、うちの従姉です~」

「やっぱりね……」


 睡蓮ちゃんに質問を続けていた恋様は納得した様子だった。


「そうだったの? 睡蓮ちゃん」

「ほんまやで~。うちの家系、霊力の取り込みが普通の巫女さんよりも多いみたいでな~。修業次第ではいっちゃん凄い呪術を使えるって言われとるんよ~」


 はんなりした様子の睡蓮ちゃんだけど、さっきまでの霊力の取り込みを見てると本当に凄い女の子なんだな~って思ったわ。


「九条院家から出る巫女は、霊力取り込みにとても優れていて、その圧倒的な霊力を操って、いとも容易く最高難易度の呪術の扱いを可能としてる一族なのよ」

「その分、大成するには時間が掛かるんだけど、見境街の神主様は二十代で神主様に就任されるだけの力を有してる天才と言われてるわ。次期雅華神社の神主様は、間違いなく彼女ね」


 涼音様も恋様も、その考えは一致してるみたい。確かにそうだとしたら、どんな方なんだろう~。気になるな~。


「睡蓮ちゃんの場合は、霊力操作の基礎を更に固める必要があるわね。それが向上すれば応用にすぐに転じられると思うわ」

「はいな~」


 睡蓮ちゃんはそう答え、礼儀正しくお辞儀した。


「最後に一つ、この雅華神社で支給されている武器は全て、呪術の装填が行えるわ」

「「呪術の装填?」」


 そこで私と睡蓮ちゃんは同時に首を傾げた。そんなことは初耳だったわ。


「霊力が減っている場合、大技の使用は難しくなる。そこで私達が使っている武器は全て、霊力に反応する特別な素材を使っている武器なの」


 そう仰りながら涼音様は刀を抜き、左手に火の呪術を発動された。


「例えば刀だと、刃の部分に火の呪術を近づけると……」


 その瞬間、涼音様の刀の刃に火の呪術が装填された。


「凄い……」

「ほんまやなぁ……」

「そして元に戻すには、武器の握りの所に同じ属性の呪術を流しこんで相殺すれば解除できるわ」


 そう仰ると同時に、涼音様の刀に装填された炎が消えた。


「呪術と武術の両方の習熟は大事だけど、非常時はこういう風に切り替えて戦うということが必要になるから、覚えておいてね。今月中は呪術に関しては霊力操作に軸を置くこと。武術は私達先輩の巫女達が見るわ」

「呪術に関しても、来月からは雅華神社の巫女達が専門的に魔物に対して使っている、邪念浄化呪術を教えることになるわ。その為にも、全ての呪術の基礎となる攻撃系呪術の精度を上げることよぉ❤」

「「はいっ!」」


 私と睡蓮ちゃんは涼音様と恋様の言葉に元気よく応え、この日の確認は終わった。



 

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