あなたはさっきの……‼

 なんとか睡蓮ちゃんと一緒に本殿に到着した私達なんだけど、武術の習熟度合いの確認を担当される涼音様と、霊力操作の習熟度合いの確認を担当される恋様はまだいらしていなかった。


「なんや、うちらが早うきてもうたのかなぁ~」

「そんなことないよ。多分準備か何かあるんじゃないかなぁ……」


 そう言いながら私と睡蓮ちゃんは、あらかじめ持ってきた武器の手入れを始めた。


「それにしても、さっきの巫女様凄かったなぁ~」

「睡蓮ちゃんは嫌じゃなかったの? あんだけ触られて」

「ちょっとびっくりしてもうたけど、結局女同士やし、見られて恥ずかしいとこもないから平気やな~」


 睡蓮ちゃん、あれだけのことをされてもニコニコ笑顔で笑っていられるなんて、どこまでもおおらかな女の子なんだなぁ。まぁ、そこがこの子の魅力かもって、私も思うようになったけど。


「それよりも、そろそろ涼音様と恋様がいらっしゃるなぁ~」

「恋様かぁ~。どんなお方なんだろう~?」


 涼音様は凛とされた中にも優しさがあって素敵なお方だから、同期の恋様も素敵な巫女なんだろうなぁ~。


 そう思ってると、大広間の戸がガララッと音を立てて開かれた。


「ごめんなさいね‼ ちょっと野暮用で遅れてしまって……」

「「涼音様、今日はよろしくお願いします‼」」


 申し訳なさそうに入ってこられた涼音様に、私と睡蓮ちゃんは挨拶をした。


「さて、これから二人にはこの一年間で学んだ霊力操作と武術を披露してもらうんだけど、私は今回、武術の方を担当するわ」

「よろしくお願いします‼」

「よろしゅうお願いします~」

「じゃあ、これからもう一人、霊力操作を見てくれる巫女を紹介するわ。入ってきなさい」


 涼音様が大広間の入り口に向かって少し声を上げて呼ばれ、一人の巫女さんが入って来た、んだけど……。


「えっ?」

「あらまぁ~」

「偶然ねぇ~❤」


 目を疑ったわ。だって入って来たのがさっき私達の身体をさんざんに弄んだ、あの金髪の巫女さんだったんだもの。


「あら? 恋ってば、もうこの子達と会ってたの?」

「さっきね❤ 可愛くって戯れちゃったわ」

「じゃあ、さっきまでのあれはそれが理由だったのね……」


 頭を抱えられた涼音様。


「あの~、さっきまでのあれって、なんのことなんですぅ~?」


 そこで睡蓮ちゃんが軽く右手を上げながら涼音様に尋ねた。


「今回、あなた達の霊力操作を担当するこの薬師寺恋やくしじれんは、雅華神社でも一番巫女が大好きな巫女なの。通称、女たらしの巫女」

「お、女たらし……」

「納得してまうわなぁ~」


 私は唖然とし、睡蓮ちゃんは口に手を当てて納得していた。


「で、巫女達と立て続けに触れ合い続けると身体が疼いて仕方なくなって、さっきまでその後始末をしてたのよ。これでも去年よりは後輩の巫女達との絡みは収まった方なんだけどね……」

「私の身体の火照りと疼きを解消できるのは、涼音だ・け・よ❤」

「あなたのせいで遅れたんだから、ちゃんと責任を取ってこの子達の修業の監督をするのよ」


 呆れる態度の涼音様とは対照的に、恋様は感激を隠しきれてなかった。どうやって解消したのかは何となくわかったけど、口にしたくない。だって絶対いやらしいことだもんっ‼ ってか、まさか涼音様までそう言うことをなさってたなんて……。


「それで恋、さっきまでの疼きを見ると、早速この子達に手を出したのね?」

「黒髪の子は清楚な上に感触が良かったし、みかん色の子は反応が初々しくて可愛かったわ~❤」

「早々に邪な道にこの子達を誘わないでもらえるかしら」

「いつかは染まるのよ?」

「今は止めてね。ってそんなことより、早速始める前に、改めて自己紹介をするわ。私は祁答院涼音。この神社で二百五十人の巫女を束ねる第一実働部隊の隊長を務めてるわ」

「私は薬師寺恋。涼音のとこと同じく、二百五十人の巫女を束ねる第二実働部隊の隊長よ❤」

「よろしくお願いします」

「よろしゅうお願いしますぅ~」


 涼音様と恋様の挨拶に、私と睡蓮ちゃんは同時にお辞儀をした。


「じゃあそろそろ始めましょう。私達のせいでこの子達を待たせてしまったんだもの。その分、質問でも何でも私達が応えてあげるから、頼ってね」

「「はいっ‼」」


 涼音様にそう言われ、私と睡蓮ちゃんは元気よく応えた。


「まずは私達、雅華神社の巫女のことから、改めて説明しないとね。私達雅華神社、そしてその系列の神社の巫女は、倭国の市民を守る為の存在よ」


 そう仰りながら涼音様は、この神社の巫女の仕事についての説明を始められた。雅華神社の巫女達の主な仕事は、自身が務めている神社が担当している管轄の地域の巡回・現行犯の確保、そして邪気に囚われた魔物への対処があるの。

 邪気は霊気の突然変異で発生するもので、基本的に邪気への耐性のない魔物達に取り付き、狂暴化させてしまうのだ。そしてそれは軍隊でも対処が出来ないので、専門の呪術師や雅華神社の巫女が対応することになるの。


「あなた達の錬度に左右されるけど、基本的には二ヶ月程度で実戦に出てもらうわ。だからそれまでに修業を積んで、早く先輩達に追いつけるように頑張りましょうね」

「はい!」

「頑張りますぅ~」

「宜しい、じゃあまず最初は、武芸の方から見るわ。二人共、武器を構えて」


 涼音様にそう言われ、私は刀を鞘から抜き、睡蓮ちゃんも薙刀を両手で持って構えた。


「じゃあ、私から二十歩。そしてお互いに三十歩の距離を取って、そこで基本的な型をやって」


 涼音様の指示通りに移動する私達。


「じゃあ、始めっ‼」


 そしてお互いに、神社で習った通りの肩を一通り披露した。


「さて、一通り型をやってもらったんだけど、まずは睡蓮ちゃんから」

「はい~」

「とてもよかったわ。基本的な動きが出来ていたし、一切の無駄もない。ここで実戦向けの薙刀術を習う上でも、この基礎を忘れないようにすれば、あなたは直ぐに上達するわ」

「おおきに~」


 睡蓮ちゃんは礼儀正しくお辞儀をした。


「沙綾ちゃんの方は、基本的な動きは出来ていたけど、ちょっと身体の軸の取り方にぶれが生じていたわね」

「ぶれ、ですか……」

「そう、沙綾ちゃんはまず、そのぶれを修正することから始めましょう」

「はいっ‼」


 涼音様の指摘は本当に的確だった。けどそれを責めるんじゃなく、改善していこうって励ましてくださるので、前向きになれる。なによりも、そう仰って頂いたことで、もう一度頑張らないとって思える。


「じゃあ次は私ね❤」


 すると、今度は恋様が一歩前に出てこられた。


「これから私が、あなた達の霊力操作の力量を見るわ」

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