初めての実戦、怖いけど頑張るっ!

荒神狼あらがみおおかみ達が邪気に囚われてるわね」


 荒神狼は普段はおとなしい魔物だけど、邪気に囚われると狂暴化するちょっと危険な生き物なの。


「でも流石は小百合様ですね。魔物達の気配を感じ取るなんて……」

「いつものことよぉ~。それよりも邪気を感じるから、三人は邪浄閃光を準備してね~」

「了解っ‼」

「了解ですっ‼」

「了解しました~!」


 あかね様と私と睡蓮ちゃんも、小百合様の合図で浄化呪術の準備を始めた。


「いくわよ~! 邪浄閃光!」

「「「邪浄閃光っ‼」」」


 小百合様に合わせ、私達は一斉に邪浄閃光の白い光を放った。


 シュゥゥゥ、という空気が抜けるような音と共に四体の狼から邪気が取り去られ、正気に戻ってその場を立ち去った。けど残りの一体は光を受けても邪気が払われず、血に飢えた獰猛な眼で私達を睨んでいた。


「あと一体から払えないわね……‼」

「では邪気そのものを抽出し、それを退治するわよ~」


 その瞬間、小百合様の印籠から先程とは違う太く黄色い糸が放たれ、邪気に取り付かれた狼に絡みついた。


「何なの、あれ……」

「あれは邪浄糸じゃじょういとっていう霊力で生成した糸。邪浄閃光とは違って魔物の邪気だけを抽出できるけど、抽出した邪気はそれだけ強力だから邪浄閃光では取り払えないの。それには攻撃呪術しか効果がないから、すぐに準備して」


 そう言われるあかね様だけど、実は私は……。


「分かりましたが、霊力が……」

「うちももう半分しかないですぅ~」


 そう、まだ印籠による邪浄閃光に慣れていない私は、今ので半分以上の霊力を使ってしまったの。


「そっか、まだ邪浄閃光を習い始めだったわね」

「残った霊力を武器に装填して戦います!」

「うちもそうしますぅ!」

「ならお願いっ!」

「「はいっ!」」


 私と睡蓮ちゃんは同時にそう言い、私は刀に火閃ひせんを、睡蓮ちゃんは薙刀に水泡すいほうと言ったそれぞれの属性の基礎呪術を装填した。それと同時に、荒神狼に絡みついている邪浄糸がどす黒い邪気を抽出することに成功した。邪気は五つに分裂し、人の姿になって襲い掛かって来た。


「あかねちゃんは左の二体を、睡蓮ちゃんと沙綾ちゃんは右の一体を二人掛かりでお願いねぇ~」

「「「はいっ!」」」


 小百合様の命令に従い、睡蓮ちゃんと私は右から迫りくる人型の邪気に立ち向かうことになった。


「行くわよっ‼」

「行くでぇ!」


 掛け声と共に、私と睡蓮ちゃんは同時に武器を振るって邪気に斬撃を繰り出したんだけど……。


「えっ?」

「んなあほな……」


 なんと邪気は両手で私達の腕を掴んで投げ飛ばしてしまったの。


「きゃあっ!」

「痛ったいわぁ!」


 強く地面に叩きつけられた私達。


「大丈夫、睡蓮ちゃん」

「大丈夫や、まだまだいけるでぇ」


 そう言いながら私達は立ち上がり、再び邪気に相対した。


「睡蓮ちゃん、私が引き付けるから、睡蓮ちゃんはあいつの背後に回り込んで一気に斬り裂いて」

「分かったわ」

「じゃあ、行くよっ‼」


 そう言いながら私は人型の邪気に突撃を始めた。人型の邪気は次々と両手に邪気の塊を発生させて私目掛けて飛ばした。


(これくらいなら避けられるっ!)


 私は飛ばされた邪気の塊をギリギリのところで飛んだり跳ねたりしながらかわしつつ突撃を続ける。


「はぁっ‼」


 そして十歩前までの距離まで詰めて、一炎の呪術を放って人型邪気の身体を燃やした。


「睡蓮ちゃん‼」

「いくでぇ‼」


 そこで睡蓮ちゃんが水泡を纏った薙刀の斬撃によって、人型の邪気を斬り裂いて消滅させた。


「や、やったなぁ、沙綾ちゃん……」

「気を抜いちゃダメ、また来るかもよ」

「そやなっ!」


 油断しないように構える私と睡蓮ちゃん。その直後……。


 ウォォォォォォ‼


「えっ?」

「なんや……?」


 なんと左から一体の人型の邪気が雄叫びと共に猛烈な速度で私達に迫ってきていた。


「危ないっ、沙綾ちゃん‼」

「睡蓮ちゃんっ‼」


 私の前に立ちはだかって守ろうとする睡蓮ちゃん、その直後にゴウッ‼ っという音が私達の後ろから稲妻が走り、邪気を消滅させてしまった。


「大丈夫ぅ~?」


 おっとりとした声のした方を振り向くと、次の矢に雷の呪術を装填させて弓の弦に番えた小百合様が立っていらっしゃった。どうやらすでに小百合様は全ての邪気を退治してしまい、余力を残して私達を助けられたみたい。


「二人とも大丈夫っ⁉」


 そこに刀に風の呪術を装填させたあかね様が声を上げながら駆けつけてくださった。


「は、はい……」

「大丈夫どす……」


 一瞬の出来事にまだ現実を受け止めきれていない私と、同じような状態になっている睡蓮ちゃん。


「傷がなくてよかったわ~」

「でも危なかったわよ。邪気や魔物との戦いでは決して油断せずに立ち向かうこと。これはとっても大事なことよ」


 穏やかな声で私達を案じてくださった小百合様に対し、あかね様は少し語気を強めながら注意をされた。


「気を付けます」

「うちも気を付けますぅ……」


 私も睡蓮ちゃんも、あかね様のお言葉を受けて反省した。


「ですがこれで、全ての邪気の退治に成功したとみていいですね」

「そうね。でもあかねちゃんは相変わらず凄かったわよ~。風の呪術を纏った太刀捌きで一瞬で退治してしまったのよ~」

「み、見てらしたんですかっ⁉」

「ええ、戦ってる途中でね」


 お二人の話を聞いて私は仰天した。あれだけ強い人型の邪気を二体同時に相手にして一瞬で倒してしまわれるなんて……。


「まったく、戦ってる最中は敵の撃退に集中してくださいっ‼」

「大丈夫よぉ~」

「いくら任務中は雅華神社で一番隙がない巫女だからと言っても、そうやっているといつか足元を掬われると何度も申しあげてるのにぃ~‼」

「そんなにぷんぷんしてるとぉ、可愛い顔が台無しになっちゃうわよ~」

「さ~ゆ~り~さ~まぁ~‼」


 と、相変わらずのあかね様と小百合様。それでも、私達では二人掛かりでも対処が難しかったじゃ気を瞬く間に対峙されたその実力は計り知れないわ。このお二人のようになるには、まだまだ時間が掛かりそう。

 特に小百合様は、普段はおっとりされて隙だらけって言われていたのに、あっさりと邪気を打ち破ったばかりかあかね様の戦いぶりを観察するなんて、一瞬でも隙を見せたら最後の実戦の場では命取りになりかねないかも知れない。一切隙を見せずに戦わないとできないことだと思う。任務の時といつもの時とは全く違うんだなぁ。


「うちらも、もっと頑張らなあかんあぁ」

「うん、頑張ろう、私達もっ」


 そう言って私と睡蓮ちゃんはお互いに手を握り、決意を新たに突き進むことを決める私達だった。



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