先輩は休日もおっとりのんびりし過ぎ!

 今日は小百合様との久々の休日。と言うわけで私こと間宮あかねは、華蓮でも一番大きな公園の長椅子に小百合様と腰をかけてた。だけど……


(もぉぉ〜! 小百合様ったら、いつまでお昼寝してるつもりなのぉ〜?)


 少し早めにお昼ご飯を食べてからすぐに私の膝枕ですやすや寝てしまったんだけど、かれこれ三時間もこの状態なのは困っちゃう。時間はもう四時過ぎてて、太陽も傾き始めてる。


 今日は午後から華蓮の商店街の服屋さんや装飾品店を一緒に巡ろうと思ってたのに、これじゃあ最初の予定が全部ダメになっちゃうよぉ〜。


「ムニャムニャ……あかねちゃぁ〜ん……」


 寝言を言ってる。私の名前を呼んで。一体どんな夢を見てるんだろう?


「あかねちゃんのおにぎりおいしいにゃぁ〜。また食べたいにゃぁ……」


 ああ……この語尾といい、蕩けた表情といい、これは随分前の休日に、私と二人でこことは別の公園でお昼を一緒にした時のことを言ってるのかなぁ?


 あの時は私がお弁当を作って、小百合様が美味しそうにおにぎりやおかずを食べてくださって嬉しかったなぁ……。でもその後もこんなふうにお昼寝されて、二時間以上も膝枕したっけ。


 ……って、あの時と全く一緒じゃない‼︎ そういえばそれで帰ってきてから「今日はお昼寝ばっかりでごめんねぇ〜。次はもうちょっと我慢するわぁ〜❤️」って仰られてたのに、結局守れてないじゃないの〜‼︎


「むにゃぁ〜……あかねちゃ〜ん❤️」

「はにゃあ⁉︎」


 お腹に冷たい何かに触れられたと思ったら、小百合様が私のお腹に両手を回して顔を埋められてた。


「あかねちゃんって柔らかくてほっこりしてて気持ちいにゃぁ〜❤️」

「く、くすぐったい……//////」


 スリスリお腹に顔を擦り付ける小百合様。単なる寝ぼけじゃない、夢の中で私に何してるの⁉︎


「むにゃぁ〜……zzz」


 と思ったら、私のお腹に顔を埋めたまままた寝息を立て始めた。


「はぁ、小百合様ったら……」


 小百合様はお昼寝される時はいつもこうだわ。で、誰よりも無防備だから、後輩や同期に寝てる時を狙ってお触りされまくる……。多分、一生治りそうにないかも。


「にしても、いくら小百合様が無防備だからって、皆も節操がないなぁ。偉大な先輩の身体を触りたいのは仕方ないとしても……」


 実際、小百合様はとても魅力的だ。優しくておっとりしてて、でもいざ戦いとなると、おっとりした態度とは、裏腹に一切の隙のない神業の如き弓術で臨まれる。


 多分、そういう二面性も好かれる理由だと思う。実際、私も新人巫女時代は驚いたわ。初めて小百合様と一緒に任務に当たった時の戦闘力と判断力は、間違い無く超一流のそれだったもの。


 優しさと強さを兼ね備えた先輩に惚れ込んだ巫女は多い。事実、私もその一人だし、甘えたい気持ちも否定できない。


 まぁ私の場合、自分で言うのもなんだけど堅物な性格だし、一人前の巫女になるために頑張らないとって思って甘えることは少なかった。風紀係に配置転換されてからは、部下と上司って関係からある程度対等な立場になったけど、小百合様への敬愛の情は今も昔も変わらないわ。


 でもここ一年の小百合様は、私と一緒だとこうやって甘えることが多い。どうしてだろ?


「んんん〜あかねちゃぁんおはようぅ〜」


 そんなことを思ってると、小百合様が目を覚まされた。


「やっと目を覚まされた……」

「あら? あらあらあらぁ〜?」

「もう三時間も経ってますよ」

「三時間〜? あらいけない〜!」


 どうやらようやく事情を飲み込められたみたい。


「今日一日の予定の半分以上が果たせなくなっちゃいましたよ?」

「そ、そうなのぉ〜?」


 泣きそうな表情で項垂れる小百合様。蕩けそうな甘い声で目元に涙を浮かべてるその姿は本当に可愛い。って、そうじゃなくて……。


「でもまぁ、六重蓮華ろくじゅうれんげに行くのは出来なくもないですよ」

「いいのっ⁉︎」

「ちょ、急に顔を近づけないでください……‼︎」


 顔を上げて目をキラキラさせながら私を見つめる小百合様。六重蓮華は華蓮北部の繁華街にある塔で、赤煉瓦と絢爛豪華な装飾が特徴的な建物として倭国の観光名所の一つとなっていて、特にこの最上階から見える夜景や夕焼け景色が絶景と評されている。


 そしてこの日、小百合が一番行きたいと挙げていた場所でもある。


「この公園から馬車で行けば一時間くらいで着くはずですから、ご一緒できると思いますよ」

「うんうん、一緒に行こうっ❤️」


 急に元気はつらつになられる小百合様。本当に行きたかったんだなぁ。


「もぅ、本当に小百合様ったら……」

「なんてったって、あかねちゃんと一緒に行くんだもの❤️ こんな幸せで楽しみなことないわよ❤️」

「わ、私と一緒だからって……」

「だってあかねちゃんが大好きなんだもんっ❤️」

「ほ、ほぇ⁉︎」


 仰りながら私の腕にぎゅっと自身の両腕を絡め頬擦りをされる小百合様。ちょ、ちょっと待ってください! 冗談ですか⁉︎ それとも本気ですか⁉︎


「あかねっやんは普段から真面目でしっかりしてて、そんなあかねちゃんがいるからこそ、私達はビシッとすべき時にビシッとできるのよ❤️」

「そ、それは生まれつきの性分ですし、巫女としてはそれが私の責務だと思ってるからですっ/////」

「そういうとこが素敵で大好きなのよ、私は❤️」


 そう仰りながらお茶目な表情で私の頬をツンッと指で突っつく小百合様。


「そ、そんなふうに褒められても何も出ませんよっ!」

「ふふふっ、本当に可愛いわぁ❤️」

「も、もうっ‼︎ 小百合様ったらぁ〜‼︎」


 やっぱり小百合様はどこまで行っても小百合様ね。でもそういうとこが尊敬できるし、まぁ、大好き、かなぁ? 

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