夏休み、どうしようかなぁ~?

 部屋に戻った私と睡蓮ちゃんは、午後の空き時間の半分を休憩に宛て、その中で夏休み期間中の計画を話し合うことにした。


「私はどうしよっかなぁ~」

「涼音様は修行に宛てよる巫女さんもおるって仰られとったけど、うちもそっちを考えよっかなぁ~」


 と、睡蓮ちゃんは首を傾げながらそうつぶやいた。


「修行かぁ~。私も武術の方が心配なんだよね~」


 そう。あれから当然のように修業は続けているんだけど、まだまだ剣術の方は成長しているとは言えない。前よりは進歩しているとは思う。でも、それでも睡蓮ちゃんと比べると未熟さを感じるばかり。


「でもでも、せっかくの夏休みを修行だけで終わらせてまうのも、なんやもったいないって気持ちもあるんよ。どないしよう~」

「悩むよね~」


 うう~ん、と腕を組んでうなり声を上げる私達。と、そんなことをしていると部屋の戸をコンコンッと叩く音が聞こえた。


「恋よ~。入ってもいいかしら~?」

「どうぞ」

「おおきにぃ~」


 という訳で、恋様が戸をガララッと開けて入ってこられた。


「相変わらず可愛い後輩達ねぇ~❤」


 と仰りつつ、恋様は私の隣に来られた。


「で、何かお悩みみたいだけどぉ、どうしたのかしら~❤」


 私に寄り添われてそのように聞いてこられる恋様。でもお願いですからさらりと私の緋袴の切れ込みからはみ出ているお尻や太ももを撫でないでください。本当に恥ずかしいんですよぉ~!


「そ、そうですねぇ、まだ考えてなくて……」

「ふぅ~ん❤」

「あの……なにか?」

「じゃあ、私と一緒に寝る?」

「ねっ……//////」


 しれっと私と同衾どうきんしようとされている⁉ いや、同衾程度で済まされるとは到底思えない、何か女の子として大切な物を奪われそう……。


「それやったらうちとの方が寝やすいと思うでぇ~」

「あら~? 睡蓮ちゃんったら大胆ねぇ~❤」

「ほえ? 何が大胆なんですの?」


 睡蓮ちゃん、恋様が仰っている寝るってのはの方じゃないの。


「と、とにかく、恋様と寝ること以外で考えようと思ってるのは確かです。修行にしようか実家に戻ろうか……」


 そう。私としては実家に戻りたいという気持ちは確かにある。けどそれと同じくらい、神社に残って修行を重ねたいという気持ちがある。


 霊力操作や呪術の使い方をもっと伸ばしたいって言うのもあるし、苦手意識のある武術の修練を積みたいって言うのもある。けど、修行にばかり明け暮れていると、せっかく久しぶりに家族と会える時間を逃してしまう……ううっ、どうしよう~?


「……涼音様や恋様は、どうされるんですか?」

「実働部隊の隊長達にも休みはあるんだけど、雅華神社を守る最後の砦として、実家への帰省や他所への旅行は許されてないの。少なくとも、任期の間はね」

「任期って……」


 と、恋様に私は尋ねてみた。


「最低でも5年は努めなきゃいけないの。私は今年で3年目よ。で、それが終わったら系列神社の神主の仕事を行ったり総本山に戻ってまた実働部隊長になったりで……最終的には選ばれた巫女が総本山であるここの神主に就任ってことになるわ。勿論、系列神社で優秀と認められた巫女もよ」

「そんな風になってるんですか……」


 初めて聞いた雅華神社の昇進の仕組みに、私はうんうんと頷いて納得した。


「そんなことになってるから、優秀な巫女達には満足な休日は取れないわ。だからもし家族と久しぶりに会いたいって思ってるんなら、会ってきたらいいんじゃない?」


 と、恋様は笑みを浮かべてそう仰られた。うう~ん。私は恋様や涼音様みたいな優秀な巫女って訳じゃないから、多分いつでも会えると思うけど~……。でも、確かにいつまでも修行修行の毎日だと、むしろ気が滅入っちゃうかも。


 ここ最近、武術の修業の成果があんまり乏しくないのも、やっぱりそのことばっかり考えちゃって逆効果になってるからかもしれない。そう考えると、私の中で答えがはっきりと出て来たわ。


「……久しぶりに、お母さんに会おうかな……」


 自然と、私は心に思ったことを口にしていた。


「そうそう、未来を担う優秀な巫女は、自由に動ける内に家族に会って、いっぱい親孝行するものよ」


 恋様は微笑みながらそう仰られた。


「恋様は、ご家族とは長いこと会えていらっしゃらないのですか?」

「そうねぇ。定期的に文を書いて、父や母に送っているわ。いつか巫女を引退する時が来たら、親孝行したいと思ってるし」

「巫女を引退するん……ですか?」

「引退したら、寮母様の後を継いでここの寮母になってぇ、若い巫女達をいっぱい、い~っぱい愛でようって思ってるのぉ❤」

「そ、そうですか……」


 やっぱり恋さまはどこまで行っても恋様なのね……。


「ってなわけで、あなた達も折角の夏休み、いっぱい実家で楽しんでくるのよぉ~」


 と、ルンルンという感じの軽快な足取りで部屋を立ち去れる恋様だった。


「なぁなぁ、沙綾ちゃん」

「なに?」

「もしよかったらなんやけどぉ~、沙綾ちゃんの家に遊びに行ってもえぇかなぁ?」

「えっ?」


 睡蓮ちゃんからの意外な提案。うんうん、これは睡蓮ちゃんとの親睦を深める良い機会かもっ!


「もちろんだよっ! 睡蓮ちゃんだったら大歓迎だよっ!」

「ありがとう~!」


 そう言いながら睡蓮ちゃんは私に抱き着いてきた。という訳で、私達の夏休みの予定は決まった。


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