どんな邪気にも負けないもんっ!

 夜の十一時。睡蓮ちゃんから屋敷内の見取り図を受け取った私達は、愛梨様と姫華様が別々に、そして私と睡蓮ちゃんが二人一組になって邪気を払うことになった。


「睡蓮ちゃん、見取り図ありがとう」

「私は屋敷の南側と西側を、姫華は北側を見るわ」

「では、私と睡蓮ちゃんは東側を巡回します」


 そう私が言うと、愛梨様と姫華様は微笑みながら頷かれた。


「邪気の程度はわからないけど、恐らく沙綾ちゃんと睡蓮ちゃんの邪浄閃光は練度が低くて効果がないっていうのを前提で動いてね」

「分かりました」

「気をつけますぅ」


 姫華様の指示に、私と睡蓮ちゃんは応えた。


「じゃあ、無事を祈るわ」

「「はいっ、行ってきます」」


 と言う訳で、私達は三方に分かれて屋敷内の探索に当たり始めた。



⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶


 見取り図によると、屋敷の東側の各階層には総裁や屋敷内の使用人の方々の私室や大浴場、食堂などがあって、そこまで複雑な作りにはなっていない。


 その代わり、一つ一つの部屋が大きいから、複雑な作りがある他の方角とは違う意味で調査に時間が掛かってしまうかも知れない。一方で戦闘になった場合戦いやすい利点もある。


 私達はまず、一階から三階の全ての部屋を調査したけど、邪気が噴き出ている様子はなかった。


 そして今、私達は四階に上がり、食堂に足を踏み入れて探索を始めた。


「姫華様が、今回のような強力な邪気の場合、霊力に反応して普通の巫女でも感知ができるっていってたけど……」

「今んとこ、そないな気配はあらへんなぁ」


 と、ため息を吐く睡蓮ちゃん。ちなみに強弱を問わずに邪気を感知するのは、雅華神社の巫女でも熟練中の熟練しか出来ない高等技術。


 今の総本山でもその域に達しておられるのは涼音様と恋様に小百合様。そして繭様と神主様の五人だけなの。でも今回のような邪気なら、私達でもある程度は感じることができる。その時の感覚はゾワゾワした嫌な感覚みたい。


「睡蓮ちゃん、感じる? ゾワゾワしたの」

「ううん。まだ何も感じられへん」

「私も。まだ何も……」


 多分ここもダメみたい。もちろん念の為に食堂全体を歩いてみたけど、それらしい気配は一切感じられなかった。


「じゃあ、ここも大丈夫みたいね。他の場所を当たりましょう」

「そやな」


 そう言って私達が食堂を出ようとした瞬間だったの。


「はっ……」

「どうしたの?  睡蓮ちゃん」

「感じるわぁ。めっちゃゾワゾワした感じが……」

「睡蓮ちゃん、方角は?」

「食道の奥。さっきうちらがみたとこから噴き出て、どんどん強ぉなっとる」

「睡蓮ちゃん、武器を構えて、水の呪術の準備もお願い」

「分かったわ」


 睡蓮ちゃんに指示を出しつつ、私も刀を抜き、刀身に炎の呪術を装填した。


 それと同時に、それまで見えなかった邪気がどす黒い巨大な人の姿を象って襲いかかってきた。


「来るでっ‼︎」

「迎え撃つわよ!」


 まず私が先行し、人型の邪気の拳打を刀で受け止める。


(火炎通貫かえんつうかん‼︎)


 続けて左手で瞬時に鋭い炎の槍を生み出して邪気に向けてぶつけ、その身体を貫いたんだけど、


「じゃ、邪気が再生してくなんて……」

「やっぱり凄く強いわぁ」


 私の呪術の威力じゃ決定打にはならない。となると、やることは一つ。


「睡蓮ちゃん、私が邪気の攻撃を防ぐから、その間に睡蓮ちゃんが使える中で最強の水の呪術をお願いっ‼︎」

「分かったでぇ!」


 睡蓮ちゃんが使える最強呪術の発動には時間が掛かる。その間私が牽制しつつ睡蓮ちゃんを守る。今考えられる最善策はこれしかないっ!


「まだまだよぉ!」


 次々と繰り出してくる邪気の拳打は、一撃の威力が重い。邪鬼の力が強すぎて、物理的な威力も高いんだ。全て私の剣術で受け止め、時にさばいて何とか凌いでるけど。長時間持ち堪える自信は正直ない。


(でも、私が踏ん張らないとこの邪気を倒せない! だからっ!)


 重い攻撃なのは確か。だから下半身に力を込めてどっしりと構えながら攻撃を続けるしかない。


「睡蓮ちゃん! まだ⁉︎」

「もうそろそろやっ!」

「分かったわ! 絶対に持ち堪えて見せる!」


 覚悟を新たに、邪気の攻撃を受け止め、身体への斬撃を続ける私。当然それで倒せる訳じゃないけど、ある程度の時間稼ぎにはなる。そう思ってたんだけど……。


ウォォォォオ‼︎


 突然邪気が鼓膜が破れそうな程の雄叫びを上げ、全身から二十本以上の黒い針を飛ばしたの。


(火球乱舞‼︎)


 すぐに全ての針を炎の呪術を飛ばして吹き飛ばしたけど、邪気はその隙を突いて一気に私に迫り、左横っ腹に猛烈な拳打を叩き込んだ。


「きゃあ‼︎」

「沙綾ちゃん‼︎」


 一気に壁まで吹き飛ばされた私。だめだ。あんまりにも痛みが強すぎて立ち上がれない……‼︎


「すい、れんちゃん……」


 枯れそうな声で彼女の名前を呼ぶ私。そんな私に邪気が一歩一歩近づいてくる。


(このままじゃ……‼︎)


 動けない。自分の死を覚悟したその瞬間だったの。


グァァァア‼︎

 

 突然、邪気の横っ腹に巨大な水の砲弾が直撃して、邪気の身体に巨大な穴を開けてしまったの。


「す、睡蓮ちゃん?」

「ま、間に合ったかなぁ?」


 それは睡蓮ちゃん最強の呪術、水砲豪水弾すいほうごうすいだんだったの。


 

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