巡回って、こういうことをするんだ……

 愛梨様に連れられ、華蓮の西側の巡回を始めた私。そう言えば、私がこの格好で外に出るのは入社式に出る時以来だった。

 雅華神社の巫女の巡回は、街の中で不届き者がいた場合の成敗と治安維持警察への引継ぎ、そして華蓮の森にいる魔物の退治といった仕事が中心となる。


「ううっ……//////」

「どうしたの?」

「い、いえ、ちょっと……」

「この装束で巡回するの、恥ずかしいの?」

「しょ、正直に言えば、そうです……」


 入社式に出席するときもそうだったけど、お腹とか胸が丸出しの白衣に、切れ込みから太ももとお尻がはみ出してる緋袴っていう巫女装束だから、正直に言って恥ずかしい//////


「最初の内はみんな恥ずかしがっちゃうわね。これも慣れだから、少し我慢してね」

「は、はい……」


 微笑みながらの愛梨様の気遣いに、私はちょっと落ち着いた。


「再来月くらいになれば、同僚の睡蓮ちゃんと一緒に、街の巡回を行ってもらうわ。とは言っても、一番安全な西か東、そして北だけだけどね」

「確か華蓮って、南には、闇市とか危険な街がありますよね?」

「そうよ」


 華蓮は、商店街が多い西門地区。住宅街・寺子屋が多い東門地区。国の公的機関が集中している北門地区があるの。その中でも南門地区は闇市や非合法な賭博組織があり、華蓮では治安維持警察であっても迂闊に入ることが許されない危険地帯となっているの。


「南門地区へ行けるのは、私達雅華神社の巫女の中でも、経験が豊富な巫女でしか巡回を許されない場所なの」

「愛梨様と姫華さはどうなんですか?」

「私と姫華も、半年前から巡回を許されたばっかりでね。正直まだ不安なの。涼音様や恋様はもう何度も巡回をされてて、何度も犯罪者の摘発もされてるわ」

「あの危険地帯で何度も、ですか……?」

「うん、若手の巫女の中でもあのお二人がダントツの実力者だもの」

「ダントツの……」


 そう言われて私は納得したわ。呪術の使い方だってとんでもなく巧みだったもの。


「経験を積んでいけば、あなた達も任されると思うから、頑張りましょう」

「はいっ!」


 愛梨様に励まされ、私はますます自信を付けなきゃって思った。そう思ってると……。


「きゃー! 泥棒よー!」


 通りの雑貨屋さんから若い女性の悲鳴が聞こえたかと思いきや、中年男性がいくつかの商品を抱えて店から飛び出した。


「愛梨様っ!」

「私に任せてっ!」


 すると愛梨様はすっと人差し指をゆらした。


「ぐはっ!」


 その瞬間、中年男性は盛大にその場に転んだ。


「沙綾ちゃん、確保よっ!」

「は、はいっ!」


 愛梨様の合図を受け、私達は素早く中年男性の元まで駆け付けて身柄を取り押さえ、腰に下げていた縄でぐるぐる巻きにしてしまった。


「ち、畜生……‼」

「「「「「おおおおおっ‼」」」」」


 周りで一部始終を見ていた往来の方々は、一斉に拍手と歓声を浴びせた。


「沙綾ちゃんはここで彼のことを見張ってて。私は治安警察の駐在所に向かうわ」

「了解しました」


 それから十五分も経たずに駐在所の警察官がいらっしゃり、中年男性は会えなく御用となり、私達は巡回を再開した。


「愛梨様、お見事です」

「沙綾ちゃんの動きも初めてにしては良い感じだったわよ」

「えっと、そんなことは……」


 正直言うと嬉しかったけど、先程の愛梨様の対処を目の当たりにした後だと、その自信もぐらついちゃったわ。


「ところで、先程愛梨様があの人を転ばせたのって……」

「あれはあの盗人の足元に、霊力で作った見えない糸を張って転ばせたのよ」

「霊力で作った見えない糸?」

「強度は普通の縄よりは劣ってるけど、不意討ちには使えるわよ」

「霊力にそんな使い方があるなんて……」


 初めて聞いた単語だわ。確かに霊力はそれ自体を操ることで様々な効果を生むことが出来ると聞いたことはあるけど、そんな使い方は知らなかった。


「まぁ、これは雅華神社の巫女達が考えた方法だけどね。霊力操作を学んでいけば使えるようになるわ。それなりのコツは必要になるから大変だと思うけど」


 愛梨様は茶目っ気を見せながらそう説明された。霊力は女性でしか操れないものだけど、巫女しか操れないという訳ではない。降霊術師や退魔師など、霊力を扱う専門職は多岐に渡る。だから、その専門職にしか伝わっていない霊力の使い方はある。先程愛梨様がされたのは、その一つなんだろうなぁ~。


私はそんなことを思いながら、愛梨様と巡回を続けたの。



⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶


 午後一時になり、私と愛梨様の巡回はひと段落した。私達は雅華神社に戻り、そこで午後二時まで寮の食堂でお昼休みを取ることになったの。


「はぁ~疲れたぁ~」

「お疲れさんや、沙綾ちゃん」


 私の隣に座った睡蓮ちゃんははんなりしながら私の頭を撫でてくれた。本当に優しい女の子だ……。


「それにしても沙綾ちゃんのとこはひと騒動あったみたいやなぁ~」

「うん、愛梨様のお手伝いで盗人を捕らえたことでしょ?」

「そうやで~。最初っからそんなことに巻き込まれるなんて、沙綾ちゃんは大変やったなぁ~」

「愛梨様が解決されたから良かったよ。でも近くで見てて本当に凄かったわ~」

「霊力の糸やろ? 姫華様もうちに犯人を捕らえる時はこんな手段があるって教えてくださったわ~」

「いずれ私達も使えるようにならなきゃって言われたけど、あんな見事なことを目の当りにしたら、出来るかどうか不安だよ~」


 圧倒的な実力の差を目の当たりにしたことは私にとって前向きに作用していたけど、この一点では不安が残ったわ。ちょっとだけさっき試しにやってみたんだけど、愛梨様曰く、結構繊細な霊力操作が必要みたいで、経験を積んでからって言われて、正直ほんのちょっとだけだけど自信が削がれちゃったわ。


「でもこの後の愛梨様と姫華様との修行で、ちょっとずつ身に着けて行けばええやん?」

「それもそうだね。後ろ向きは私らしくないわっ‼ 一緒に頑張ろう、睡蓮ちゃん‼」

「お~!」


 ありがとう睡蓮ちゃん、そうと決まったら、私も午後からの修業を頑張らないといけないわねっ!



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