うちは沙綾ちゃんと一緒に進み続けるわぁ

 邪気との戦いから一夜が明けて、うちらはお母様に任務完了の報告をする為に、総裁執務室に来た。


「以上で、屋敷内の全ての邪気を払うことに成功しましたので、ご報告とさせていただきます」

「ほんまにありがとうございます」


 愛梨様に丁寧な態度でお辞儀をするお母様。でも表情は相変わらず厳しいわぁ。


「今回現れた邪気は非常に強力なものでした。恐らく今後も現れないということはないでしょうから、その時はまた、私達に依頼していただきたく思います」

「分かりました」


 姫華様にそういったお母様は、チラリとうちを見た。


「もしよろしければ、少し睡蓮と二人で話をしてもよろしいでしょうか?」

「ええ、大丈夫ですよ。睡蓮ちゃんは?」


 愛理様に尋ねられたうち。正直何を言われんのか分からんから不安やけど、断るなんてことはもっての外やと思い、大丈夫と答えた。


「じゃあ、私達は外に出てるわ」


 傷の癒えた沙綾ちゃんが、静かにうちの耳元で微笑みながら囁き、愛梨様と姫華様と一緒に執務室を出た。


「……」

「……」


 ううぅ〜。なんやめっちゃ空気が重いわぁ。お母様の表情も険しいままやし……。


「睡蓮」

「は、はい?」

「そんなの緊張せんでもええで。親子なんやし」

「そ、そうなんですけど……」

「敬語も外して宜しいわぁ。まぁ、少し私が圧を出しとるんのが悪いのかも知れへんなぁ」

「ほぇ?」


 お母様、珍しく冗談を言うなぁ。どういうことやろ?


「睡蓮、あなたは九条院家の娘として生まれ、そして自分の道を選んだ。それは、家を継ぐのとはまた違う荊道を進むことや。十分、覚悟の上やと思うけど……」

「うん。自分で決めたなら死ぬまで貫く。九条院の家訓やな」

「後悔は、あらへん?」

「後悔は無いけど、焦りはあるんよ。巫女になって華蓮と倭国を守る。でも、もっと踏み込んだ、うちにしかでけへん巫女にならんと、何もでけへんかもって」


 沙綾ちゃんがそうあるように、うちも巫女としてうちがなるべき姿、見つけなあかん。


「……姉達が見たら、きっと成長したなぁって驚くやろうなぁ」

「えっ?」


 急に険しい表情から柔らかい穏やかな表情に変わったお母様。久しぶりに見たけど、姉様達が何を驚くんやろ?


「あの子達、普段からはんなりしとる睡蓮を心配しとったけど、それと同じくらい成長を楽しみにしとったんよ」

「そうなんや……」

「少なくとも、家を出る前のあなたよりは逞しくなったと、私は思うんよ。ほんの少しやけどね」

「お母様……」


  そっか……姉様達がそんなことを言っとったんやな。でも確かに、はんなりしてばっかりのうちを心配するのは無理ないわなぁ。


「それで睡蓮、あなたは雅華神社の巫女として、倭国を守るだけでなく、何のために戦うのか、考えてるのね?」

「はい、うちにしかでけへん巫女としての生き方を見つけることが、これからの成長に繋がるんやないかって、そう思っとるんよ」

「それは具体的に何なのか、もう分かってることなん?」

「まだはっきりとは……でも、一人前の巫女になるには絶対に必要やと思っとるんよ。沙綾ちゃんと一緒におったら、そう思わされるんよ」

「沙綾さんって?」

「橙色の髪の女の子や。うちと一緒に雅華神社の巫女になった同期なんよ。巫女になって力をつけて、戦争や災害で孤児になった子達を守る為に巫女になったんよ。倭国の為だけやなく、自分の信念の為にも戦っとるんよ」

「あの子ね……そう。あなたにいい影響を与えたのね」


 お母様はそう言いながら微笑んだ。


「沙綾さんとの出会いが、あなたにそこまで考えるきっかけになった。自分にしか出来ない、自分だけの巫女としての姿を見つける。それも立派なことと思うわぁ」

「お母様……」

「いつか、見つけられるとええなぁ。睡蓮だからこそなれる巫女としての在り方が」

「うんっ! 絶対に見つて見せるわぁ!」


 うちは自信を持ってそう言い切った。お母様に応援される。それが凄い心強いわぁ。


「沙綾さんはあなたにとって、大切な人なんやなぁ」

「そうなんよ。うちにとって一番大切な人やでっ! これからもずっと一緒にいたい、巫女として成長し合いたい。そういう子なんよ!」

「……いい子と巡り会えたなぁ……」


 そう言いながら微笑んだお母様。めっちゃ嬉しそうやわぁ。


「睡蓮、これから先もあなたには様々な苦難が待ち受けているやろうけど、いい仲間と巡り会えたあなたなら、何度転んでも立ち上がれる。そう信じとるよ」


 そしてうちをギュッと抱きしめるお母様。久しぶりや、この温もり……。


「ありがとうっ、お母様!」


 お母様の温もりを感じながら、うちはお母様にそう言った。



⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶⊶


 お母様とのお話を一段落させて、うちは屋敷の外で待っていた沙綾ちゃんと愛梨様、姫華様と合流した。


「えろぉお待たせして堪忍ですぅ」

「気にしなくていいわよぉ❤️」

「待ってる間に姫華と濃ぉ〜い時間を過ごせたもの❤️」

「そ、そうですかぁ」


 外に出とるのに、大胆なことをしとったんかなぁ? 心なしか、冬なのに汗かいとるし。


「ね、ねぇ睡蓮ちゃん」

「さ、沙綾ちゃん……」


 そうや、うちと沙綾ちゃんとの約束があったわぁ。沙綾ちゃんもうちも、もう限界や。


「神社に帰ったら、いっぱいしようなぁ❤️」

「うん。そうしようね❤️」


 と言うわけで、うちらは神社に少し小走りで帰った。

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