久しぶりのお母さんの料理は絶品っ!
お風呂を上がって四時間後、桃色の着物に着替えた私と睡蓮ちゃんはしばらく同じ部屋でおしゃべりをしたりして過ごしてから、お母さんに呼ばれて一階に降りて来たの。そう、久しぶりにお母さんの手料理が食べられるのっ!
「はぁ~お母さんの手料理、本当に久しぶりだわぁ~!」
「うちも楽しみだわぁ~」
と、一階の畳の部屋に向かう廊下で、睡蓮ちゃんもはんなり声でときめきながらそう言った。
「待ってたわよ~!」
部屋に入ると、既に料理を円卓いっぱいに並べ終えたお母さんが、窯に入れたご飯を三人分にしゃもじでよそってお椀に入れてたの。今日の夕飯は、お父さんが漁で取ったお魚料理。
「うっわ~! このお魚料理懐かしいよぉ~!」
「これが沙綾ちゃんちのお料理なん? めっちゃおいしそうやわぁ~!」
と、沙綾ちゃんも目を輝かせながら喜んだ。
「さぁ、召し上がれ~」
「「いただきま~す‼」」
そう言って私達の食事は始まったわ。そして相変らずお母さんの手料理は絶品‼ そしてこのお魚を捕って来た漁師のお父さんにも感謝感激‼
「めっちゃおいしいですわぁ~!」
「そう言ってくれると嬉しいわ~」
満面の笑顔でご飯を食べる睡蓮ちゃんの言葉に、お母さんは頬を赤く染めながらそう言った。
「実はお母さん、ちょっと今日の料理自信がなかったの」
「どうして?」
「九条院財閥のお嬢さんの口に合うものかなぁって思っちゃってね」
お母さんの心配は当然だと思う。普通だったら世界に名を馳せる大財閥の人に、家庭的な料理が口に合うのかどうかって考えちゃう。いつも通りの感じに見えて、結構緊張してたんだなぁ。
「めっちゃおいしいですよぉ~。確かに豪華な料理もええですけど、こういう家庭的な……そうっ、おふくろの味というのも味わってみたいって思っとんたんですぅ~」
「おふくろの味……いい言葉ねぇ~!」
お母さん、睡蓮ちゃんの誉め言葉にすっごい興奮してる。やっぱり緊張が半端なかったみたい。でもそう言われると確かに私でも嬉しいって気持ちになるよ。
「おふくろの味で思い出したけど、睡蓮ちゃんのとこってお母さんが手料理を作るってことはあるの?」
「昔はあったんやけど、お父様が七年前に流行り病で逝ってもうた時からしてないんや。婿養子でうちに入った人なんやけど、お母様を献身的に支えとったし、めっちゃ穏やかであったかいお父様やったわ……」
「あぁ、確かご主人って、総裁の秘書をやってたのよね……」
睡蓮ちゃんの話を聞いてお母さんが頷いた。そう言えば新聞でそんなことを書いてたっけ。あの頃はそんなに新聞とか読まなかったけど、あの報せはすっごく覚えてるわ。
「お母様は、めっちゃ厳しい人やけど、子供がどんな人生を選んでもええって言う人なんや。家柄で人生を縛ろうなんて思わへんって」
「そうなんだ」
「でも、どんな道に進もうとも、九条院家の家訓を大切にすることだけは忘れてはあかんって言うんや」
「九条院家の家訓?」
「己が決めたことは、死ぬまで貫かんかったらあかん。例え家を継がんとしても、これだけは忘れたらあかんってな」
そう言った睡蓮ちゃんの声は、いつものはんなり声じゃなく、九条院家の娘って感じの、ちょっと険しいものがあったわ。
「睡蓮ちゃんも、その家訓を守ってるってこと?」
「もちろんやでぇ~! わがまま言って家を出たんやから、この家訓だけは守らなあかんって、心に決めたんですぅ~」
お母さんの問い掛けに、さっきまでの張りつめた声からいつものはんなりふんわり声に戻った睡蓮ちゃん。
「凄いね、睡蓮ちゃん」
「そないなことないよ~。沙綾ちゃんかて、倭国の為にって思って巫女になったんやろ?」
「うん。この村にも雅華神社の系列の神社があって、いつも巫女さん達の力を目の当たりにしてきたから、いつか私も、この国の人達を守る巫女になりたいって、そう思って猛勉強してみこになったわ」
「せやったら、何も心配することなんてあらへんと思うんけどなぁ~」
「そうかな?」
「うんうん、うちかて、沙綾ちゃんの頑張る姿見て、うちもまだまだやなぁって思ってまうことがおおいもん。うちにとって、沙綾ちゃんは目標やし、傍にいて一番大切な人やで」
「睡蓮ちゃん……」
睡蓮ちゃんにそう言われるのは、すっごい嬉しいっ!
「きゃっ!」
だから私は、自然と睡蓮ちゃんをギュッと抱きしめた。
「嬉しいわっ! 睡蓮ちゃん大ぁい好き❤」
「も、もう、沙綾ちゃんったら//////」
戸惑いながらも、睡蓮ちゃんは優しく抱きしめ返してくれた。
「ふふっ、二人とも、本当に仲がいいわねぇ~。お母さん、安心したわっ!」
お母さんも微笑みながら私達を見てそう言ってくれたわ。
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