23話 役者はアスリートらしいです


「よーし、ほいたら全員揃ったし、早速稽古始めよかー」


 僕がジャージに着替えるのを待って、ちゃーさんが殴り合いでも始めるかのように拳を掌に打ち付けた。

「はーい」と答え、わらわらと部屋の中央に集まってくる桃紙ももがみさんと羽織はおり。僕も倣って後に続く。


瀬野せのっちは初稽古やな。どやどや? 初稽古の気分は?」

「いや、まだ始まってないのでなんとも。てゆーか、今日はこれで全員なんですか?」

「せやで。一光いっこうとおりんとミシェルは一年の勧誘行っとるわー。だから、今日は遊びみたいなもんやけど、許してな」

「あ、はい。全然大丈夫っす」

 むしろ、ありがたいです。さっきはカッコつけて余裕ぶってみたけれど、本当は初めての演劇の練習でちょっと緊張していたりする。球技全般ならおよそやることの見当もつくけれど、演劇なんて右も左もさっぱりだ。


「よーし。ほんなら、演出も発声隊長もおらんことやし、今日は体系でいくで。まずは二人組つくって柔軟体操からなー」

「レント君、一緒にやろ」

 ちゃーさんの言葉が終わるやいなや、桃紙さんが僕の袖を握ってきた。

「え、一緒にって……」

ああ、そうか。このメンバーで二人組ってことは、僕は女子とペアと柔軟体操することになるのか……………え、マジで? 女子と? いいの? すげーな、演劇。

「ちょっと、だめだよ、男女で柔軟なんて! ガミエはちゃーとペア組みなさい。蓮ちゃんはあたしと組むんだから。ね、蓮ちゃん?」 

 いいわけがなかった。羽織が素早く反対側の腕を引く。

「ちょ、ずるいです! 男女はウニさんも一緒じゃないですか!」

 しかし、桃紙さんも負けてはいない。さらに強く僕の袖を引き返す。

「あたしと蓮ちゃんは姉弟同然だからいいの。ガミエはちゃーと組みなさい」

「ずるいずるい! 横暴ですー! ウニさん横暴ですー!」

 ちょ、ちょ、何この状況? え、取り合い? まさかの僕の取り合い? 嘘だろ。ごめん、二宮。なんか早速あったわ、ラブコメ展開。しかもハーレム展開だよ!


「おいこら、いつまでやっとんねん、お前ら! ええから一年同士で組め。ウニはウチとや、早よ来い!」

 痺れを切らしたちゃーさんが、羽織の首根っこを捕まえてずるずると引きずって行く。

「いやー! やだやだやだ! 蓮ちゃんがいい! 蓮ちゃんがいいのー!」

 おお、羽織。あんなに涙目になっちゃって。許せ、王子様の体は一つしかないんだよ。

「ほな、開脚から行くぞー。ウニ、背中押したるから足開いて床に座り」

「やだー! 蓮ちゃ――――ん!」

 かくして、王子様を求める哀れな呼び声が部室に響く中、柔軟体操は開始され、

「せーの、おりゃあああああああ!」


「きゃああああああああああ! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛ぁぁぁ―――い!」


 羽織の声はすぐに壮絶な悲鳴へととって代わられた。

「痛いことあるか、こんなもん。そんなんやからいつまでたってもウニは体固いままなんじゃ、死ぬ気でやらんかーい!」

「い――たぁぁぁ――――い! 死んじゃう、本当に死んじゃうぅぅぅぅぅ!」

逃げられないよう膝を両手でがっちりとホールドしつつ、のしかかるようにして羽織の背中をぐいぐいと圧迫するちゃーさん。 

「ああ、ウニさん可哀想……よかった、ちゃーさんとじゃなくて」

 苦痛に歪む羽織の顔を、桃紙さんは憐れみと安堵の入り混じった表情で眺めつつ、

「じゃあ、あたし達もやろっか、柔軟。あたし体固いから……優しく押してね❤」

僕に向かって激烈な笑顔でそう言った。


二宮よ、訂正だ。さっきの争いは王子様の争奪戦ではなく、どうやら鬼軍曹の回避戦だったらしい。

演劇って、意外と体育会系みたいだぞ


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