29話 実際、素人にはダンスの良し悪しなんてわからない
そんなこんなで早くも話題沸騰のサンデーゴリラのゲリラライブは、放課後の部に突入しさらに熱を増すことになる。
「ウ―――ニちゃ――――ん!」
今朝の噂を聞きつけた上級生組がこぞって詰めかけてきたからだ。
前の道を埋め尽くす人の群れ、もとい男の群れ。部活で鍛えた野太い声が雄叫びのように立ち上る。
てゆーか、全員部活があるはずなのに、どうやってこれほどの人数が集まってくるんだろう。
「ウ――ニちゃん! ウ――ニちゃん! ウ――ニちゃん! ウ――ニちゃん!」
そして、叫ぶこと叫ぶこと。ライブが始まる前からすでにお祭り状態だ。もはや立派なアイドルだな、
「ちょ、コールはやめてくださーい!」
「おーい、姫がお怒りだぞー」
「コールやめろー、ウニ姫様がトゲットゲだぞー」
ああ、もうアイドルでもねーや。姫だよ、姫。あいつお姫様だったんだよ。
とにかくそんなわけでウニ姫様の大活躍のおかげで放課後のライブも大盛り上がりで終了し、部室には入部届の束が積み上げられることとなった。
かくして、わずか一日で目標を達成したサンデーゴリラのゲリラライブはめでたく大団円を迎えるのであった。
よきかなよきかな……………と、ならないところが、この劇団のややこしいところだったりするのです。
「全員却下―――――――っっっ!」
第二音楽室にお
「一年ども、このゴミをまとめて焼却炉で燃やしてこーい!」
そして、紙吹雪のように部屋中にばら撒かれる入部届。
「うわわわ、だめですよ、お鈴さん!」
「何してんすか、せっかく集まった入部届なのに」
「それのどこが入部届なのよ! 志望理由をよく読んでみろ!」
舞い散る紙を追いかけて右往左往する僕と
「志望理由………ああ、ここか」
拾い集めた一枚を見てみれば、確かにクラスと氏名を書く欄の下に件の枠が取ってある。
「えーっと、『志望理由:美しすぎるウニ姫様に公私共にお仕えするため』……なんじゃこりゃ? 桃紙さん、そっちのは?」
「ええっと、『好き好きウニ姫愛してる▽ 僕が姫を抱き締めたなら恋の軍艦巻きの出来上がり―――海苔王子より』。うわぁ………」
うわぁ………。
「ちょっとちょっと、もういいよ。読み上げないで二人とも」
羽織が真っ赤な顔で入部届という名のラブレターを奪い取る。
「はー、どれもこれも、ウニ姫ウニ姫。見事にウニ目当てばっかりね、見る目ないやつばっかだわ~」
札束を数える銀行員のような手つきで、ミシェルさんが入部届の束を指で弾いた。
「なあ、聞いて聞いて。すげーやつがおるぞ。『今日のウニ姫のパフォーマンスは出色と言ってよい出来でした。しかし、惜しいのはウニ姫という極上の素材の活かし方を真に理解していらっしゃる方が貴団体に一人もいないということ。どうしてもということであれば、当方にはプロデューサーとして参加する準備があります』やってさ、痛すぎる。あははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!」
「笑ってる場合か!」
怒り狂ったお鈴さんが机を蹴り飛ばし、羽織がビクリと肩を震わせた。
「くっそー、どいつもこいつも殺すわー。うちはウニのファンクラブでもなければプロダクションでもないのよ! レント、この可燃ゴミに火ィつけて各々の家の郵便受けに放り込んできなさい!」
「んなことできるわけないでしょ!」
「できるかできないかで言えばできる部類のことでしょうが、さっさと行け!」
「落ち着いて下さいって、お鈴さん。いいじゃないですか、入ってもらえば。例え動機が不純でも入部希望には違いないし」
「だめよ!」
チャーム(魅了する)ポイント(箇所)と紹介したはずの目力を、凶悪に研ぎ澄ませてお鈴さんが睨む。
「さっきも言ったでしょ、うちはファンクラブじゃなくて演劇研究会なの。ウニ目当ての色ボケどもは全員お断りよ」
「確かにこんなの入部させたら、それこそ去年の二の舞だもんね~」
入部届を団扇のようにしてバサバサと扇ぐミシェルさん。
「去年? なんですか、それ」
「あれ、坊やには言ってないの、ウニ?」
「ちょ、ミシェル!」
さっと顔色の変わった羽織が指で×印を作り、その話題はNGだという意を示した。
「アタシ達去年もやったのよ、ゲリラライブ」
だからといって何がどうなるわけでもないけれど。
「ミシェルのバカ!」
「あれって去年のいつだったかしら、
「あーっと、演劇部辞めてすぐだったから、夏前だな」
「ええっ! 一光さんって演劇部だったんですか? いがーい」
サラッと漏れてきた衝撃事実に、桃紙さんのツインテールがびこーんと逆立った。
「俺だけじゃねーぞ。サンデーゴリラはみんな元演劇部の集まりだ」
「マ、マジっすか?」
反射的に白塗りになった一光の画が頭に浮かぶ。
「いや、やってねーぞ、白塗りは。あんまりに窮屈過ぎてすぐに辞めたからな。んで、好き勝手やりたいやつらばっか集まってできたのが、サンデーゴリラだ」
「それで部員集めのためにゲリラライブですか?」
「んー、それもあったけど……」
頭の後ろで手を組みながら部員達の顔を見回す一光さん。
「それよりは、とにかく何かやりたかったってのが大きいかな」
「何か……ですか?」
「おう。何せ、みんな演劇部辞めたばっかでストレス溜まってたしよ。好き勝手やるっつーコンセプトで集まった集団でもあったから、何か好き勝手やりたかったんだよ。で、みんな好きなカッコで踊ってやった」
「それが女優・ミシェル
ミシェルさんが誰も聞いていないことをポーズまで決めて言う。
「へー、それがミシェルさんの女装の始まりだったんだー」
「正装よっ!」
言わでものことを言う桃紙さんの頭に、割の本気のチョップが振り降ろされた。
「ふん、そんなこともあったわね」
照れ臭いのか、お鈴さんはことさらに眉根を寄せて髪の毛をかきあげる。
「ちなみに、お鈴さんはその時どんなカッコしたんですか?」
「
僕の問いにお鈴さんが即答する。
「すみません、何ですって?」
「肉吸いよ。夜の山に現れる妖怪で、提灯を貸してくれと近寄っては旅人の肉を吸うの」
「確認ですけど好きなカッコをしたんですよね?」
「殺すわよ?」
「やめてください。えっと、じゃあ、ちゃーさんは?」
「トノサマバッタ!」
「へー……」
うん、この人達はもういいや。
で、肝心なのは………
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