サンデーゴリラの常識ですから
桐山 なると
序章 夢の描写とか読まなくていいよね
序章
夢に現れたのは、純白の少女だった。
透き通るような白い肌とはよく言うけれど、彼女の白は決して透けない。
それは無形の闇の中で己の領分を切り取り誇示するような、確固たる白。曇りのない白。
何の思考も読み取らせない白紙を思わせる顔の真ん中で、妖しく光る双眸だけが儚げな黒をちらつかせていた。
ああ、また……この夢だ……。
空間が歪むような違和感に襲われ、世界がぐにょぐにょと歪み始める。
「……やめろ」
心の中で呟いたけれど、言葉にはならない。
それからどれほどの時間が過ぎただろう。悠久とも思える沈黙を弄び、彼女は静かに白い唇を開いた。
大きく、大きく。僕の顔を飲み込むほど大きく。
「やめろ!」
叫ぼうとするけれど、やはりそれは言葉にならない。少女の口はもう目の前に迫っていた。少女は僕の頬を両手で覆い、真っ白い喉の奥から生暖かい息を吐き出した。
「れんちゃん……」
「やめろおおおおおおおおおお―――――っっ!」
「きゃあ!」
布団を跳ね飛ばして飛び起きると、ベッドの横で小さな生き物が転がった。
「ん、あれ? 白い女……あれ?」
「……おにーちゃん?」
呆けた表情でカーペットに尻餅をついていたのは、神がこの汚れた地上に使わせた最後の天使。寝ぼけた視界にもクリアに映る、ガブリエルとかラファエルとか、なんかその辺の何とかエルの生まれ変わり。
「お、おにーちゃん。栗ね……栗ね……朝ご飯が出来たから起しに来たの………」
ちなみに地上での名前は
「だから、だから……怒らないで、お兄ちゃん………」
「え? 怒ってない怒ってない。僕が栗に怒るわけないだろ」
「ふぅぅぅぅぅぅ……」
やばい。怒られるのが大嫌いな栗のお目々が決壊寸前だ。どうしよう、栗の泣きべそ超可愛い。兄弟とはいえ男と二人きりの部屋でそんな庇護欲掻き立てられる表情浮かべて何を始めようっていうんだ、この天使は。
「怒っちゃやだよぉぉ。あ―――――――――――――――ん!」
おお、普通に泣き出した。
「おにーちゃんに嫌われたー。あ―――ん」
「いや、嫌わないよ。お兄ちゃんが栗を嫌うわけないだろ。大好きだぞ。お兄ちゃん栗のこと条例に触れるレベルで大好きだぞ!」
「うわ――――ん、顔がー。うわ――――ん」
あれー、ガン泣きが加速した。
「うっせーな! 朝っぱらから栗泣かせてんじゃねーよ、くそ兄貴!」
なんか、リビングから
「美愛ちゃん、怒っちゃやだぁぁぁぁぁぁ」
栗の号泣も止まらないし。なんだよ、今日は。目覚めて一分で何て様だ。
ちくしょー、それもこれも………………全部お前のせいだからな、白塗り女。
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