第33話 翼に願いを

 結局あれやこれやと悩んだ挙句、雑貨屋でも空振りしてしまった俺は最後の希望に賭けて6階に向かったものの、まさかのメンズフロアという事実に直面してしまい撤退を余儀なくされた。

 いよいよ万策尽きたかと絶望感に打ちひしがれていたが、再び訪れた3階のフロアで意外にもお手軽価格のアクセサリーショップを発見することができ、すがりつくような思いで足を踏み入れた。


「んー……これぐらいならギリギリ手が出せるか……」

 

 ガラスケースにへばりつきながら、そこに並んでいるデザイン豊かなアクセサリー……の値札を真剣に見つめる。

 もしもこれらに『0』が一つでも多くついていたなら、俺は本当に手ぶらで雨音の家に戻るはめになっていたかもしれない。

 助かった……と内心安堵するものの、お次の課題は雨音に似合うものを見つけることができるかどうかだ。

 自分用のアクセサリーでさえ持っていないし買いに行ったこともないこの俺が、ファッションに興味がある歳上の女性に贈るプレゼントを選ぶなんて、何だかかなり無謀な気もするが……

 そんなことを思いながらも、俺は全神経と集中力を持ってして、ガラスケースの中でキラキラと自分の存在を主張しているアクセサリーたちを吟味していく。

 ハートのチャームがついたネックレスや星のデザインが彫られた指輪など。

 種類こそはたくさんあるものの、どれもこれも雨音が身につけるにはちょっと子供っぽいような気がして、なかなか選ぶことができない。

 もちろん俺は中学生なので、仮にそういったものを選んだとしてもまだ許される立場なのかもしれないが、せっかく雨音にプレゼントするのなら、やっぱり喜んでもらいたい。 

 からかわれたりおちょくられることもよくあるけれど、それでも雨音はいつも俺のことを考えてくれているので、こういう時ぐらいは彼女のために出来る限りのことはしたいのだ。

 

 そんな思いで真剣な眼差しをガラスケースに向けていた時、手前に飾られているネックレスにふと目が止まった。

 シルバー一色のそのデザインはシンプルで、ワンポイントについているチャームも小さく、他のものと比べると大人っぽい。

 それに、鳥の翼を象ったそのチャームは、何となく、いつも明るくて自由な雨音のイメージともピッタリ合うような気もする。


「……これだ」

 

 思わず小さく声を漏らした俺は、ガラスケース越しにいる店員と目が合うと「あの……」とよそよそしい態度で口を開く。

 よくよく考えてみればこうやって誰かの為にプレゼントを買うなんて、生まれて初めてだ。

 ましてやその初めての相手が女性なのだから、店員に商品を注文するだけでも緊張してしまう。どんな人に渡すのか? とか色々と根掘り葉掘り聞かれたらどうしようかと一瞬不安になったが、そんなことはなく、雨音と歳が近そうな女性の店員は慣れた手つきでギフト用に包装してくれた。

 

 雨音のやつ、喜んでくれるかな……

 

 期待と不安が入り混じった感情を胸の内に感じながら、俺は店員から小さな紙袋を受け取る。

 雨音は俺の誕生日を初めて祝ってくれた人だ。だからこそ自分も、彼女にとってそんな特別な人でありたい。

 そんな決意と一緒に、手にした紙袋をきゅっと強く握りしめると、俺は大切な人が帰ってくるあの家へと足を向けた。

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