家出2秒後に隣人のお姉さんに誘拐されて
もちお
第1話 プロローグ
――探さないで下さい。
なんてありきたりな文章なのだろう、と書いた直後に我ながら思う。語彙力の無さをこういう場面で痛感するのもおかしな話しだ。まあこんなメッセージを残したところで、どうせ誰も探しに来ないのだから別に構わないけど。
俺はそんなことを思いながら昨夜用意しておいたリュックを背負うと、顔がバレないように深くキャップを被る。そして、財布とスマホをズボンのポケットに突っ込むと静かに部屋を出た。
この日の為に、俺は入念な準備を行ってきた。アクシデントもトラブルも起こらないし起こすつもりもない。
幸いなことに今は夏休みだ。学校から連絡が来ることが無ければ、家族も旅行中で自分以外は誰もいない。軍資金というには心もとない金額だけれども、それでもあいつらが帰ってくる頃にはかなり遠くまで逃げ切れているはずだ。
俺は廊下に出るとそのまま階段を降りて、一直線に玄関へと向かう。住み慣れた、とはまるで程遠いこの慣れない空気を吸うのも今日が最後だ。いや、必ず最後にしてやる。
きゅっと強く結んだスニーカーの紐をそんな決意に見立てると、俺は重いリュックを背負ったまま立ち上がる。扉を開けて外に出ると、青すぎる夏空の下ではセミがしゃわしゃわとまるで警報のようにうるさく鳴いていた。そんなにわめき立てたところでここには誰もやってこないし、自分は見つかることもない。
俺は今、『自由』を手に入れた。
そう思い、歩道に向かって一歩目を踏み出した時だった。
「おや?」
突然近くから声が聞こえてきて、俺は思わずビクリと肩を震わせた。まさかこんなタイミングで知り合いか? と恐る恐る声がした方をちらっと見てみると、そこに立っていたのは見知らぬ女性だった。
20代ぐらいだろうか。栗色の長い髪に、猫みたいに大きな瞳。Tシャツとデニムパンツというラフな格好をしているせいで学生なのか社会人なのかはわからないが……ただ、胸はやたらとデカい。
誰だよコイツ、と思ってそのまま無視して通り過ぎようとしたら、相手は「おやおやおや」と一人呟きながら何故か近づいてくるではないか。そして俺の目の前にそいつは立ち塞がると、その潤んだ唇でニンマリと弧を描き、突然こう言ったのだ。
「今から君のこと、『誘拐』しちゃいますッ!」
「…………」
それは俺が家出してから、2秒後に起こった
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