第22話 モブ令嬢のわたしはヒロインたちの自由研究を見学する
フローリー男爵家のお屋敷に戻ってきた後、持ってきたお茶菓子を食べながらお茶を飲み、そして少し間が空いたのでわたしと三人娘は話が盛り上がっている残りのふたりを置いて、そこから脱出するのに成功した。ふふふ。あとはお若いふたりでー、てなものだ。
「こっちだよ!」
チェルシーに手を引かれて歩いていくと、廊下の突き当りに何やら重厚な扉があって開いた先には下り階段があった。え? なに? これからワクワクなダーク展開とかになっちゃうやつ?
「足元気を付けてくださいね」
「この階段、どうしても湿気が籠るからな。あたしに掴まっててもいいよ」
トレイシーが手を貸してくれたので、恐る恐る階段を降りる。いやー、常々思ってたけどさ、このふんわりと足元が広がったドレスって足元が見えなくて怖い!! 特にこの湿気で滑る石階段とか恐怖でしかない。灯りを持ったチェルシーとカーリーに挟まれて、トレイシーに手を持ってもらいながらゆっくりと降りる。ごめん~。
「さて、着いたよ」
ぐるぐると螺旋階段を降りると、そこにはまた重厚な扉。鬱展開しか予想できないような作り! と、はしゃいでる場合じゃないか。
そして扉を開けると、そこには何やらいろんな機械が動いていて、本やら書きかけの数式が書かれた紙やらが散らばった部屋が広がっていた。
「何? これ」
「ふふーん。これはねぇ、ゴーレム開発室なのだっ!」
えっへん、と胸を張ってチェルシーが答える。カーリーがその横に走って行って、遅れていっしょに胸を張った。可愛いか、君たちは。
「今は人間サイズのものを研究しているんです。司書のイェレミアス様にもいろいろ聞いて、専門書を選んでもらったりしてるんですよ」
ほほう? そうなんだ。しかし夏休みの自由研究にしては大掛かりでない?
「あたしにはさーっぱりわかんないけど、ふたりが楽しそうだからいいかなー」
トレイシー ハ カンガエル コト ヲ ホウキ シタ。
いや、君んとこの姉妹でしょうよ。違うか。これは自分の好きなことをするってのを優先してるってことかな?
「見た目はあたしが担当で、動かす部分はカーリーが担当なんだよ! いつかちゃんと動くようになったら見せるね! お楽しみにね!!」
芸術分野が得意なチェルシーが外見担当で、勉強全般が得意なカーリーが中身担当ってことね。なるほど。役割分担もしてるのかー。
「どんな形のものを作ってるんですの?」
「それはひみつー」
「完成してからのお楽しみですわ」
にっこりにこにこと笑顔でかわされてしまった。ゴーレム。ゴーレムね。まぁファンタジー世界だからそんなのもあるのかな。ゲームの中では出てきたかな。あんまり覚えがないけど。
「こっちが術式で、こっちが外見を作るのに使用する素材表でー」
一生懸命説明してくれるのは有難いけど、これ、専門分野のことで何も予備知識がないと全然頭に入ってこないな。とりあえずすごーく難しいことに挑戦しているのは分かる。
「少し片づけないといけませんわね」
「ふたりとも没頭すると他のことに気が回らなくなるもんねー」
カーリーがぼやいたのにチェルシーが同調する。そのあたりはやっぱり似たもの姉妹なのかな。
それから部屋の中のものを一通り説明してくれて、わたしたちはもう一度階段を昇りふたりがいる部屋に向かうことにした。
「クレバーとリーリヤ姫殿下、うまくいくといいですわね」
勝手にふたり置いてきちゃったけど、大丈夫だったかな。まぁメイドさんも侍従もそばにいるんだから何か起きることもないだろうけど。
「そうだね」
短く返事をしたチェルシーはいつもより声のトーンが一段低めで、何かを真剣に考えている顔をしている。
「どうかしましたの? チェルシー」
「ん? ああ、何もないよ。ちょっと自由研究で行き詰ってるとこがあるから、どうしよっかなーと思っただけ」
「そうですか?」
そうだよ、とチェルシーが笑う。いつもの明るい声といつもの明るいトーン。
何かちょっと引っかかりを感じたけれど、そこから先には突っ込んで何かを聞くことはわたしには出来なかった。
余談だが、クレバーとリーリヤ姫殿下は文通を始めることにしたらしい。
うまくいくといいね!
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