4セット目:サウナ探偵の温度

復讐に至る病

 その人物は陥穽かんせいを掘っていた。誰かを落とし入れる計略の比喩ではなく、純粋な落とし穴を。穴は深く、身長を超えるまでになっている。――なぜ自分がこんな穴を掘っているのだろう。そんな疑問を考える余裕はとうに過ぎ去り、ただただ無心にシャベルを動かしていた。


 がきり。


 突然の手ごたえと衝撃に、思わずシャベルを両手から取り落とす。はっと我に返り、軍手をはめた手で足元を掻き分けてみると、どうやら大きな岩に当たったらしい。危ない。こんな物の上に落ちたら危険だ。取り除いておかなければ。シャベルを握りなおした手は、しかし、不意に止まった。


――


 その人物は、もう一度考える。。その通りだ。なるほど。面白いじゃないか。奴らに教えてやるいい機会だ。いったい、自分たちがどんな事をしているのかを思い知らせてやろう。これは、復讐だ。その瞬間、ただの落とし穴は、比喩としての陥穽に変貌した。


 ざくり、ざくり。その人物は岩の周りを憑かれたように掘り返す。取り除くためではなく、穴の中心に据えるために。執拗に、そして丁寧に土を退けていく。


 その顔には久しぶりに微笑みが浮かんでいた。カメラの前で見せる作り笑いではない、心の底から湧き出る微笑みが。

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