探偵は依頼を募集する
「やあやあ、チョコじゃないか。
寒さの厳しい2月上旬、静岡県警捜査一課の刑事である
「
「茉祐ちゃんが! 控えめに言って最高じゃないか」
「はい。僕も貰いましたが、食べられずに取ってあります」
「龍二君、わかるよ。でも、こういうのはやはり食べてこそだよ。では早速……、おっと、その前に」
竜太郎は炬燵に入ったまま巨躯を伸ばして棚に手をやったかと思うと、1枚のタブレットPCを持ち出してきて写真を撮った。
「これでOK。龍二君、最近のタブレット端末は凄いね。なんでもできるよ」
「
「ああ、ついこないだ買ったんだよ。江美には内緒だよ。また怒られるからね」
「わ……わかりました」
竜太郎は、ひょいぱくとチョコを摘まんで口に入れた。目を瞑って頷いている様子からすると、なかなかの出来なのだろう。いくつかを大事そうに味わうと「江美と茉祐ちゃんにお礼を入れておくかね」と呟いて老眼鏡を取り出し、タブレットを操作し始めた。まだ慣れていないのだろう、文字入力に四苦八苦している。
今ではすっかり、ちょっと体のデカい
「そういえば義父さん、探偵業の方はどうなんですか」
「ぼちぼちだよ。主な依頼は徘徊しているお年寄りの捜索なのだけどね」
「人探しですか」
「ああ。市役所から頼まれたりもしてね。やはり年が近いせいかな。考え方が似通っていて、割と見つかるんだよ。散歩代わりのいい運動にもなるしね。まあ、この季節は膝が痛いのが難点と言えば難点だけどね」
「冷え性ですもんねえ」
「まったくだよ。想像していたような『座ったままで事件を解決』という探偵生活とは違うけど、これはこれで中々楽しいものだよ」
メッセージを打ち終わったらしく、竜太郎は「送信」と声に出して画面をタップした。江美も龍二も、一人で田舎に引っ込んだ竜太郎を心配していたが、この分ではご近所ともうまくやっているようだ。まだまだ老け込むには早いとはいえ、60歳を越えればいろいろと無理もきかなくなるだろう。探偵業も忙しすぎず、のんびりとこなせているようで、なによりだ。安楽椅子探偵に憧れていた竜太郎は少々不満らしいが、龍二としては、正直言って安心した。
「そうそう、龍二君。
「陽斗君が。彼、そんな事もできたんですね」
龍二の感心をよそに、竜太郎は嬉しそうにWebページを表示した。そこには「
「良く出来ているじゃないですか。凄いですね」
「ああ。陽斗君、いろいろ詳しいらしくてね、ほら、依頼を受け付ける『ふぉーむ』という奴まで作ってくれたんだ」
「へえ、そんなものまで。そこから来た依頼はあるんですか」
「ハハハ。今のところは無いね。送られてくるのは、メール代わりのお礼のメッセージとか、小学生が送ってくる推理クイズの問題だけだよ、見てみるかい?」
竜太郎はタブレットを操作してメール画面を表示した。いくつかのメッセージが残されていたが、どれも竜太郎の言ったような内容ばかりだった。いくつかを確認していた龍二は、ひとつのメッセージに気が付いた。
「あれ? 義父さん、これは……」
「ん? なんだろうね。まだ読んでないぞ」
そこには、ひとつのリンクと共に、簡潔にメッセージが綴られていた。
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この動画には嘘があります。探偵さん、どうかその嘘を暴いてください
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「これもクイズでしょうか? それとも悪戯かフィッシング詐欺でしょうか」
「ふむ、龍二君、連絡先の住所がこと細かに書いてあるぞ。どうやら依頼人はご近所らしいね。年齢欄は……14歳? 中学生がなんでこんなメッセージを」
「気になりますね。義父さん、見てみますか」
「ああ、そうするとしよう」
そう言うと竜太郎は、リンクをタップした。ブラウザには動画ページが表示された。そして華やかなBGMと共に、探偵の元に謎を提示するひとつの動画がスタートした。
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