探偵は事件をせがむ
「というか義父さん、探偵を始めるのなら警察辞めずに、
義父は、その数々の事件を解決した功績から、定年後も捜査技術を指導する嘱託職員である「伝承官」への転身を打診されたのだが断り、富士山麓の田舎に引っ込んで隠居暮らしを始めたのだ。のんびりと釣りや庭いじりでもするのだろうと思っていたのだが、蓋を開けてみれば、これだ。
「だって面倒じゃないか龍二君」
「え」
「伝承官になったらなったで、退屈な講義か、現場捜査に駆り出されるかだろう? もう地道な捜査は飽きた。そういうのは任せたよ、
「飽きたって、義父さん。そりゃまあ、仕事ですから捜査はやりますけどね」
竜太郎の義理の息子である所の
その後、なんやかんやのご縁があり、竜太郎の娘である
「私は安楽椅子探偵というのをやってみたいんだよ。こう、座って聞くだけで事件解決というやつ。あれね」
「あれね、じゃないですよ」
「杉下警部とか榊マリコさんとかさ」
「めちゃくちゃTVの影響受けてるじゃないですか。それにあの人たち、結構足使って捜査してますよ」
「まあまあ、そう言わずにお試しと思ってさ。ほれ、何かあるだろう?」
竜太郎は期待に目をキラキラと輝かせてこちらを見ている。とても還暦を迎えた男性の目とは思えない、まるで4歳の茉祐のような純真な瞳だ。マジですか義父さん。仕方がない。何か適当な事件の話をしてお茶を濁すとしよう。
とはいえ、現在進行形の案件を話すのは少々まずい。義父の知らない解決済みの事件は無かっただろうか。そう考えた龍二は、愛知県警の刑事から聞いた事件を思い出した。これなら丁度良さそうだ。
「じゃあ、そうですね。――とある瀟洒な屋敷の主人が毒殺された事件がありましてね」
龍二がそう切り出すと、竜太郎は肘掛けに腕を置き、身を乗り出すようにして話を聞く体制を取った。
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