探偵はサウナで謎をととのえる

吉岡梅

1セット目:サウナ探偵櫓竜太郎誕生

神から貰った毒物

 その人物は、毒物の入った小瓶を手に取り、しげしげと眺めていた。傾けた瓶の中を流れるそれは青酸化合物。わずか0.2グラム程で人ひとりの命を終わらせる白い粉末。


――この粉末を、このタイミングで手に入れたのは、神様が後押しをしてくれているのかもしれない。


 ぼんやりとそう考えている自分に気付き、その人物は、はっと我に返った。軽く首を振って、小瓶をことりと机の上に置く。


 頭の片隅に浮かんだ考えは、しかし、だんだんと大きく膨らんでくる。そうだ。後押しをしてくれているのだ。いや、後押しなどいらない。自分の意志で、あいつを終わらせるのだ。向こうが好き勝手に清算する気ならば、こちらにも考えがある。


――なんでも自分の自由になると思うなよ。


 その人物は、自分の考えがとても気に入った。そうだ。そうなのだ。好きにさせてたまるか。別れの価値も時間も、あいつに勝手に決めさせはしない。こちらが決めてやるのだ。


 薄暗い部屋の中、小瓶を握りしめたその人物は、自分でも気づかないうちに、忍び笑いを漏らしていた。

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