5セット目:サウナ探偵の巡礼

あらかじめ約束された凶器

 その人物は激怒していた。まさかあいつがあの男と手を結んで自分を陥れようとしているとは。たまたま耳にした会話から、その企みを知ってしまったのだ。


 許せない。これまでどれだけの時間、どれだけの労力、どれだけのお金を捧げてきたと思っているのだ。それを無にするどころか、さらに自分から大切なものまで奪おうとするなんて。


――そっちがその気なら、こっちにも考えがある。


 あの2人が離れていくのならば勝手にするがいい。お金や世間体などは問題ではない。そんな物、熨斗のしを着けて持っていくが良い。またいくらでも手に入れてやる。


 だが、子供だけは話は別だ。それでは筋が通らない。あの子はどこにも行かせないし誰にも渡さない。ましてやあの2人の元などには。みすみす泥棒に渡してなるものか。あの子のいない生活など耐えられない。


――あの子は、自分が守らねば。


 その人物は静かに準備を始めた。いつ仕掛けられても対応できるよう抜かりなく。はた目には何も知らない振りをして、あの2人には決して気取られぬよう、何気なく、いつも通り、穏やかで無力な羊のようにしおらしく振る舞おう。


 その懐に、いつでも刃を向けられる抜き身の凶器を忍ばせながら。

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