★★★ Excellent!!!
「疾走する玉座」あるいは完璧なタイトル 宮﨑
人類史において、あらゆるレガリア——王権を象徴する遺物——は失踪するものである。
だからこそ、彼らは人々の心を掴んで離さない。ある者にとっては欲望の象徴であり、ある者にとっては夢の表象であり、またある者にとっては人生の総決算となる。だからこそ、あらゆる犠牲がレガリアのために払われた。
それはここシェストラ王国でも同じことである。
その失踪が、普遍的な理由——王室内の政争の結果でも、あるいは首都を襲う災害の結果でもなかったとしても。
王国を襲った政治的混乱の結果、玉座は古代の自走機械に取り付けられてしまった。
そうして玉座は疾走し、そして疾走したのである——。
そうしてあらゆる種類の人間が、玉座を狙って動き出す。
一癖も二癖もある、魅力的なキャラクターたち。
ファンタジーとしても、またSFとしても優れた設定。
スチームパンクでサイバーパンクなガジェット群。
無駄なく、しかし濃密なストーリー展開。
それら相互の魅力を失わせることなく結合させる、軽妙で重厚な文体。
群像劇としては(あるいはそうでなくとも)およそ完璧と思われる筆力。
どれをとっても賞賛に値するが、特に驚異的なのは作品を通じてリアリティが失われないところであろうか。文芸におけるリアリティとは何も現実世界を細密に描写することではない。むしろ現実とはかけ離れた世界を、まるで現前する景色のように描写することにあるように思う。本…
続きを読む