フランケル山脈①

 悪魔の中指デビルズ・ミドルフィンガーの搭乗員たちは、すでに疲弊していた。

 

 機関士が四人、それに砲撃手が一人。

 ルゴー、メリサ、ナロー、ゼロッド、クラリックという面々でベイリー除く全員が首都ダーナムで生まれ、故郷を出たことはない。


 慣れぬ異郷の旅は思わぬ精神の負荷を及ぼした。何度か玉座に迫ったものの、燃料の補給のためにルートを変えなくてはならなかったことも、ストレスの原因だった。

 故障も多い。部品の交換や修理にも時間を取られた。

 

 せめてジャングルでライバルを仕留めたのなら気が晴れようというものだったが、それも実は期待薄だ。ゼロッドの砲撃の腕は確かだといえ、姿の見えぬ相手を音だけを頼りに仕留めるには無理があったろう。


「燃料はどうだ?」

「山を越えられる分はたっぷりあります」


 ベイリーに応じるのはルゴーの弟であるナローだった。似てない双子もあったものだ。短躯で固太りのルゴーに比してナローはひょろ長い。女に奥手なルゴーとは反対にナローは積極的だ。そっくりなのは剽軽でやたらと口数が多いところだろうか。


「大将、山越えにゃ体を温める酒がねえと凍死しちまいますよ」

「ならば、それも積み込んでいこう」


 そこへゼロッドが異論を唱える


「ベイリー様。酒は統率を乱します」

「あんたは下戸だからそう言うのさ。統率は乱れても士気は上がる」

「君は飲みすぎだ。醜態を晒してばかりだ」

「お堅いこって。控え目にゃするから、やいやい言うなよ」


 疾駆する鋼鉄の塊とはいえ、それを繰っているのは生身の人間ソフトマシーンだ。飲食も排泄もすれば、下らぬ諍いもある。些細なことで険悪になるのもしょっちゅうだ。


 ベイリーはこの乗り物のリーダーであるよりも対人関係の調整役としての役割をより果たした。気苦労もそれなりに多い。


 このチームの唯一の女性であるメリサは作業着を腕まくりで男どもを蹴散らす。


「無駄口叩いてる暇あんの? 出力が落ちてる。熱効率がダダ下がりなのは一昨日補給した燃料の質が悪いからよ。復水器の修理を頼んだわよねクラリック? あんたら余裕で山を越えられるってタカくくってるけどどうなるかわかんないよ」


「すまない。すぐ取り掛かろう」


 クラリックはおずおずと答えた。落ちくぼんだ眼はクラリックに隠者めいた面影を与えていた。寡黙で印象の薄い男だが、ルゴーが選抜したのだから腕は確かだ。


「クラリックにはボイラーの方も頼んでおいたんだ」


 ベイリーが取りなすがメリサは気が収まらない。


「仕事ってのはね、優先順位ってもんがあんのよ。……まったく。いいわ。こうしてる時間だってもったいない」


 それぞれが持ち場に散っていく。

 じょじょに眼前に迫りつつある山塊にベイリーは気を引き締める。


 雪を頂いたフランケル山脈の主峰ストラバ山はシェストラ王国の最高峰と知られている。多くの伝説に彩られた山、そこには竜の舞う空があり、雪人が足跡があり、地底世界に通じる入口があるとも言われる。


「大将、犬橇の女です」


 声を上げたのはルゴーだった。指さすその先には八頭のコギト犬に曳かれた橇が走っている。先行するレイゼルに悪魔の中指が追いついた形になる。


「撃ちますか?」

「待て、横につけろ」


 高度が増すにつれて温度は急激に低下した。蒸気機関の性能は寒冷地でも衰えることはないが、人間のパフォーマンスは著しく下がる。比べて、レイゼルとコギト犬には寒さはむしろ味方となる。


 ベイリーは側部ハッチを開け放った。


「北の領主レイゼル・ネフスキー殿とお見受けするが」

「いかにも。そちらは奸臣イルムーサを討った救国の英雄殿ではないか。このような場所でお目にかかるとは奇遇だな」


 レイゼルの返答は慇懃だが素っ気ない。


「ベイリー・ラドフォードと申します。わたしのような者をご存知とは光栄の至り」

「ああ、年端のゆかぬ少女を殺した上に図々しくも玉座まで狙う盗人の顔。一度拝んでみたいと思っていた。どんな外道なのかと楽しみだったが、一応人間らしい目鼻立ちをしているな」

「……なるほど、友好的な関係は結べそうにありませんな」


 二人の間の空気は一気に張り詰めた。


「王になるのに資格は要らぬ。歴史上貴殿より愚昧な王はいくらもいた。貴殿より暴虐な王も凡庸な王もな。さぁ、玉座へ手を伸ばすがいい。届くのならば」

「ああ、そうさせてもらう。あなたは何故?」

「盗人から玉座を守るため」

「ふん、無欲な愛国者というわけか」ベイリーは吐き捨てた。

「どう思おうと勝手だ」

「……敵同士ということでいいのだな」


 レイゼルは返答せず、口笛で犬たちに合図をした。犬橇は加速し、凍結した斜面を滑るように駆け上がっていく。


 大量を煙を吐き出しながら、悪魔の中指は、それを追った。まるで黒い死神に追われるように犬たちは疾走し、無数の小さな足跡と轍を残していく。


「ゼロッド、チャンスがあればやつを撃て。殺してもかまわん」

「……はっ」


 ゼロッドは砲台に身を埋めた。

 こうしてベイリー、そしてレイゼルという両雄の間には埋めがたい溝が生じた。他者に服従することを喜ばぬ双方にとってはそれは必然であったかもしれない。天敵というものがあるのなら、ベイリーとレイゼルにとって互いがそうであるのだ。


 玉座の姿は遥か先だ。


 だが、この山脈を通過した形跡はある。吹雪にかき消されなければ古代の多脚機械が残した足跡をたどれるはずだ。


「大将、前だけじゃない。ケツからも誰かが追ってきやすぜ。距離は3エスロ―、いや2か」


 ルゴーの報告に「何だ?」とベイリーが振り向き、渡された双眼鏡をのぞき込んだ。


「わからねえ。なんだか船みてえな形だが」


 ウェスたちが迫ってきているのだ。ドーズィーと一戦を交えたタイムロスは激しい追い上げのおかげでほとんど問題にならない。手に入れた不凍液がこの寒冷地での衰えぬスペックを保証してくれている。


「うわぁ! ありゃ蒸気式装甲車9型だろ」


 ウェスは興奮のあまりひっくり返りそうになった。


「犬橇の姐さんはその先だ」


 冷静にスタンは各自のポジションを確かめる。あの草刈り機は姿が見えない。燃料となる草のないこの場所ではお呼びではないということなのか。ジャングルで得た余剰エネルギーで立ち向かうのは至難の業だ。おそらく山脈の尽きた場所に回り込んでくるはずだ。


 玉座の動きは読めないが、ガラッドとかち合う場所なら、フィンドール砂丘かレゾの湿地帯のどちらかに賭けるのが順当な線だ。


 土壌はますます凍結の度を増した。

 ウェスたちは悪魔の中指ミドルフィンガーの背後につけた。


「ここならぶっ放される心配はない」


 そこは砲撃の唯一の死角となる場所だった。この魅力的な走る鉄の塊についてウェスは知り尽していた。なにしろ祖父の遺品にこの機械についての資料が山ほどあったからだ。


「おーい」


 ウェスは大きく手を振った。

 メリサは短く切りそろえた赤毛を寒風になびかせ、後部の非常口から半身を乗り出す。


「なんで子供がいるの?」

「ん? 玉座のケツを拝みたくて。あんたらのケツにまず追いついたとこだ」

「その乗り物は……」

「んなことよりそっちに移っていいかい? 蒸気式装甲車もっとよく見たいんだ」


 返答をする間もなくウェスは自分の船をスタンに任せ、メリサが押しとどめる間もなく悪魔の中指に飛び移った。


「ウェスっおい!」


 スタンの慌てぶりなどどこ吹く風、ウェスは感心しきりだ。何しろ夢にまで見た王国の技術の粋がここにある。


「すごい振動だね。ふんふん。図面とは微妙に違うか」

「待て。誰が乗り込んでいいと。許可を取るまで勝手なことしないで。ウロチョロしちゃダメよ」


 好奇心でキラキラと眼を輝かせた少年の扱いにメリサは慣れていない。


「誰だ? 騒がしいな」


 そこへやってきたのルゴーだった。


「なんでガキが乗ってる?」

「勝手にこの子が」

「だからどうしてだ?」

「知らないってば」


 メリサとルゴーが無益な言い合いをするうちにウェスは機関室まで踏み込んでいった。


 ウェスは無作法にあたりを眺め回し、気になることがあれば誰彼かまわずに問いかけたから乗組員たちは呆気に取られるばかりだ。騒ぎになるのに時間はかからない。とはいえ、それは好意的な騒動でないとは限らない。


「おじさんたち。ここの構造はどうなってんの? だってほら、この形状だとさ、横の微振動に弱いでしょ。タービンの翼を多段式にするなら、もっとこう軸方向にゆとりがあったほうがいいよ」


 まくしたてるウェス。ルゴーはまごつきながらもペースに乗せられてしまう。


「いや坊主、それだと重量がデカすぎる。簡素な設計にしたのは運用を考えてのことだ」

「耐久性は? パイプの接合部がもうガタついてる。いくら軽くて低燃費でもしょっちゅう壊れるんじゃ商売あがったりでしょ」

「修理するにもシンプルな仕組みのがいいのさ」

「よってたかって世話してるわけか。で、この大所帯なんだね。人間の燃料の方だってバカにならないでしょ」

「まいったな。坊主、おまえの言う通りさ。大将には内緒だが、もっとマシなプランがあった気がするぜ。坊主名前は?」

「僕はウェス・ターナー」


 名を聞くやいなやルゴーは眼をぱちくりさせた。


「ターナー? おまえもしかして」

「ん?」

「ヴィンス・ターナーって偏屈じいさんを知ってるか?」


「知ってるもなにも」きょとんとした顔でウェスは聞き返す。「ヴィンス・ターナーはウェス・ターナーのじいちゃんさ。そっちこそなんで?」


「おれはずっとあの人の下でこき使われてた」ルゴーは弟に呼びかける。「よぉ!ナロー。驚くぜ。この坊主ターナーさんの孫だぜ」


 やってきたナローも驚きの声を上げた。二人はウェスの祖父老ターナーの愛弟子だった。


「出来損ないのルゴーに足手まといのナロー?」


 ウェスも二人のことを祖父に聞かされ知っていた。


「ひでえな」とナローがこぼす。「でも、あの人らしいぜ」


 三人が思い出話に花を咲かせたのはしかし、ほんの束の間のことに過ぎない。老ターナーの一風変わった死に様に話が及んだ時、見過ごせない報告が悪魔の中指を駆け巡ったのだ。


 ナローが機関室から飛び出る。


「なんだ?」


 続いてウェスも外に出た。乗組員たちは皆、ある一点を見つめている。それも畏怖に染まった眼の色で。


「雪崩れか」


 雪に覆われた山の斜面の一部が崩壊した。

 遠く見えてはいても、ものすごい速度で白い奔流は迫ってくるだろう。


「直撃コースだぜ」


 凄まじい地響きは恐怖と同時に荘厳な感動すら与える。それはルゴーたちの進行方向を遮る恰好で真横に突き進んでくる。


「スタン、出せるか」


 ウェスは叫びつつ、自分の船に戻ると、ルゴーたちに合図を送った。


「先導する。ついて来い!」

「待て、お前」


 ルゴーの慌てっぷりは絵に描いたようだ。さすがにベイリーは冷静に指揮を取ろうとするが、これは戦争ではない、さすがの将校も勝手が違う。


「こいつの図体でも転倒しないルートを見繕って走る。見失うな」

「なんだ、あの子供は?」


 ベイリーは詰問する。


「説明してる暇はありやせん。従いますか?」

「冗談を言うな」ゼロッドがベイリーを代弁した。

「ですが」

「他にどうすれば?」


 乗組員たちは困惑し、打つ手を見いだせない。得体の知れない子供の導きに従うのが正解だなどと誰が信じられるだろう。しかし、この場において他に取れる方途はなく、とうとうメリサが許可を得ず、ハンドルを操作した。


「ウェスとか言ったね。あんたに乗ったよ」

「正気か。失敗すれば厳罰だぞ」

「厳罰? その時は誰も生きちゃいませんよ」


 悪魔の中指は、二人の少年が乗る小さな走る船に望みをかけた。

 その様は、ヒラヒラと舞う蝶を追う肉食爬虫類を連想させた。

 

 ウェスとスタンは、流体に限りなく近い雪面を走るのはお手の物だ。湖水地方で育った経験は、柔らかく滑らかな路面の声を正しく聴きとることを可能にした。


「なんだ、これ楽しいな」

「ったくおまえは。笑ってる場合じゃねえぞ」

 そう言うスタンも楽しそうだ。


「どうだデカブツはついてきてるか?」

「ああ、親鳥に付き纏う雛みてえだ」

「親鳥よりでかい雛かよ」


 雪崩れにも速度の速い部分とそうでない部分がある。流れの突端に飲み込まれるのをうまく避けながら、ウェスたちは滑走した。悪魔の中指は、重量があるだけあって本流にさらわれさえしなければ、少々の勢いにはビクともしない。


 とうとう流れに追いつかれはしたけれど、雪崩れはその時にはもう減衰していたから影響はない。転倒も埋没も免れた。せいぜいのところ後部が横滑りした程度だ。


 ウェスたちがかなり裾野のあたりに停止すると、悪魔の中指も近くにつけた。蒸気式装甲車の中から喜びに興奮した面々が飛び出してくる。


「なんてこった。生きてるぞ! あれを乗り切ったぞ!」

「坊主、おまえすげえじゃねえか」

「命拾いしたわ。ありがとう」


 ウェスとスタンは大人たちに抱きしめられ、髪をもみくちゃにされた。


「おっかねえ。死ぬと思ったぜ」


 スタンがいまさらながら身震いすると、ナローは機関室にあった防寒着を二人分寄越してくれた。


「こいつを着ろ。途中で寄ったイゼントで仕入れたものだ。セブロの毛皮にまじないがほどこしてある。体温を逃がさないはずだ」


 まじないとは呪法とも呼ばれ、シェストラでは廃れつつある技だ。精神と万象を照合一致させる高尚な思想から迷信に過ぎない民間信仰までもが、十把一絡げにそうまとめられる傾向にある。太古に隆盛を誇った魔術と呼ばれる技術体系の抜け殻と言ってもいい。


「どうも」スタンは素直にそれを受け取る。 


「待て。勝手に備品を譲渡するな」


 苦い顔をしているのはベイリーだ。

 こんな子供の先導によって九死に一生を得たのが気に食わないらしい。


「いいじゃないすか。おかげで命拾ったんだ。ここでケチっちゃ男がすたる」

「どこの馬の骨とも知れぬ子供の戯言を信じるとは」

「こいつはヴィンス・ターナーの孫だ。悪魔の中指ミドルフィンガーもこいつのじいさんの発明でさ」


 これぞまさにウェスの存在証明だと言うようにルゴーは胸を張った。


「ヴィンス・ターナー。王国中に轟くその名はよく知っている」

「こいつじいさんにそっくりです」


 まるで生き写しだ、とナーローも兄弟に賛同した。


「違う。じいちゃんが僕に似てるんだ」


 ウェスの子供っぽい反論に思わずベイリーも表情をゆるめた。


「よし、今回だけは特例として許そう。しかし、この君たちが玉座を目指すというのなら……」

「わかってるよ競争相手だ。手心は必要ない」

「おまえたちが射程距離内に入れば迷いなく撃つ。それでいいのか?」


 ベイリーに冷たい態度に意外と子供好きのクラリックが口を挟んだ。


「ベイリー様。それはあまりに恩知らずでは?」


 しかしベイリーにぎろりと睨まれると半分に見えるほど委縮した。ベイリーが本気でないにしろ、覚悟を問うていることは一目瞭然だった。


「王の不在の現今、各地で騒乱や武装蜂起が頻発している。誰であろうと、正統を騙り、我こそが王なりと声を上げることなどたやすいのだ。世は詐欺師と盗人で溢れかえっている。だからこそ、あの玉座を正しい者が手に入れねばならない……ふぐっ!」


 だしぬけにベイリーの顔面が何かに覆われた。

 高らかな演説な最中であっただけに皆がぎょっとした表情を浮かべている。


「道化猿!」


 ジャングルに帰ったと思っていたあの猿がそこにいた。どうやらウェスたちの荷物に紛れ込んでいたようだ。


「おまえ、こんなところまでついてきちまったのか」


 ウェスは呆れつつも嬉しそうだ。

 ベイリーはもごもごと顔に張りついたけむくじゃらの塊を引っぺがそうと格闘している。


 その様があまりに滑稽だったから、はじめにウェスが、次いでスタンが、さらにメリサが――最後にとうとうゼロッドまでもがついには吹き出した。


 やっと猿をもぎ離し、雪原に放り投げたベイリーは皆の笑顔に出くわして、赤面した。これでは救国の英雄も形無しだ。


「大将、とんだ災難でしたね。よりによって猿が、ぷっくくく」


 腹を抱えるナロー。


「黙れ。な、何がおかしい!」


 ベイリーは、余計に笑いにそそることになるとも知らず、威厳を取り戻そう怒鳴るが、誰ももう委縮したりしない。


「はは。なかなか楽しいボスだ。いいチームなんだろうね」


 屈託なくウェスが言う。


「ああ、そうだぜ、この人はすごいのさ。イルムーサって腐った野郎を宮廷から追っ払ったんだ。スカっとしたぜ、なぁ?」

「そうさ。この人こそ王のなるべきなのさ」

「たとえ、おまえがヴィンスさんの孫だろうと玉座は譲れねえな」


 ルゴーとナーローの兄弟が口々に讃えるのを鉄面皮のベイリーは黙って聞き流しているが、まんざらでもなさそうだ。


「そうだ。ベイリー様は最高なんだ。とにかく最高さ」


 ゼロッドも参戦してきた。寒いのに、気持ち悪いほど頬を上気させている。


「……もちろん俺たちだって捨てたもんじゃないぜ。みんな凄腕の技術者ばかりだ。それにおまえのじいさんが開発したこいつは世界の果てまでも駆け抜ける!」


 ルゴーは頼もしそうに蒸気式装甲車の横っ腹を叩いた。

 道化猿はひとしきり雪原を駆け回ると、またウェスたちの船に戻ってきた。


「そっちも賑やかなチームになりそうじゃない?」とメリサ。

「ああ、お手柔らかに頼むよ。鉛玉をぶち込まれるのはゾッとしないけど」


 和やかなに雰囲気に乗じてスタンがベイリーを見つめた。

 醜態をさらしたあげく、さんざん持ち上げられた後だ、ベイリーの固い殻もふやけているはずだ。


 不承不承といった感じで前言を訂正した。


「……まぁ、子供相手に少し大人げなくはあった。そちらから仕掛けてこない限りこちらから手を出すことはない。ただし、他の競合者との闘いの巻き添えになるのまでは関知しない。自分の身は自分で守るんだぞ」

「わかったよ。よろしくなベイリー」


 ウェスが馴れ馴れしく言う。

 

 ベイリーはすかさずたしなめる。


「ベイリーさん、だ」

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