黎明の世界で勃発する、チキチキ玉座争奪レース。 ※追記ネタバレあり

※小説は絶対評価したいので星の数は適当です。
※第四章前半まで読んだ感想です。
※追記 最後まで読んだ感想を加えました。

蒸気機関の発達に伴う産業革命は、科学が魔法や神をその玉座から引きずり下ろしたといっても過言ではあるかもしれませんが、そんな解釈をしちゃってもいいのではないかなと思うのでそういう認識で進めます。

蒸気機関車や光走船なるちょっとオーバーテクノロジーっぽい代物や犬橇が、足を生やして逃げ出した玉座を追いかける。それをとっ捕まえた奴が次の王様だ。

そんな頭がおかしい設定を彩る登場人物も、全員適度にイカレポンチで大変によろしいです。サラリと紹介します(レビュー主の主観による勝手な予断が紛れ込んでいますので、絶対に本編を読んでご確認ください)。

ウェス・ターナー―――主人公っぽい少年。王の権力に頼らず世界を変革できそうな発明家で切れ者。可愛い犬が殺されると怒るけど、知らん奴が殺されても何とも思わない。色んな意味で素直で爽やかなイカレ野郎。
※追記 最初っから最後まで変わらぬイカレ野郎として物語の潤滑剤と清涼剤の役割を果たした偉大な天才と書いてアホ。

スタン・キュラム―――ウェスの相棒。このウェスタンコンビが狂言回しというか、結構切実に玉座を追っているシリアス組の物語を和らげる清涼剤になっている。多分全キャラクターで一番まとも。こっちが表の主人公かもしれない。呑気な苦労人。ちょいちょい好悪問わずフラグを立てている。
※追記 なんか人間の枠外を飛び出すニュータイプとして覚醒しつつあったが、とりあえず人として生きられているようでホッとしている。運命の内側で、ギャグ時空もリードした敢闘賞。

レイゼル・ネフスキー―――北国の領主。すごい犬橇を駆る女傑。ヒロインっぽい気もするけど、今のところ個人的な印象は『漢の中の漢』である。殴り合い最強。裸族。犬……。
※追記 途中、幻術にかかったが完走した。北の国からやってきて、再興の“火”を持ち帰った。

ガラッド・ボーエン―――元奴隷で現商人。奴隷解放のために玉座を追っかけてる。豪放磊落。「奴隷にもいろいろいるじゃん、ほら、結構良い待遇の人たちもさ」という玉虫色の説得にも応じず手前勝手な自由を押し付けようとする男。割と頑固な連中が多い中、常に盤面を俯瞰して立ち回れるトリックスター。
※追記 オッサン、思わぬ恋のキューピットに。自由を押し付ける日々は続く。

ベイリー・ラドフォード―――本作のシリアス成分を一手に担う悩める将校。お国のために傀儡政権の王女を暗殺したことをずっと気に病む曇りキャラ。責任感が強いが、冷徹にもなり切れない。多分長男。やってきたことを踏まえると仕方ないけど、あちこちから命を狙われ過ぎてて嫌な意味でモテモテ。きっと顔も良い。
※追記 悩める軍人キャラとして曇り続けていたが、最後はスッキリしたっぽい。ヤンデレ怖い。

ルードウィン―――遅れてやってきた追跡者。ウェスの爺さんと旧知っぽい。うっかり針で指を刺しちゃうドジっ子。でも絶対にものすごい裏があるはず。アニメ化したら絶対にCV石田彰。
※追記 トリックスターかと思ったらクレイジーサイコなヤンデレだった。二、三回SAN値チェック失敗したけど生きてた。良かった(良くない)。

その他、色んな人間の思惑と謀略と偶然が絡みつき、一流の西部劇のような丁々発止が繰り広げられるのですが、一つ面白いところとして、二章で、突然竜が登場し、スタン・レイゼル・ベイリーの三人が『次期王様候補』としてはた迷惑な竜紋を授けられます。

「僕にはないの?」と訊いたウェスにラトナーカルと名乗る竜はこう言います。

『これより先、地上は変貌する。蒸気と騒音、電熱と鋼鉄が竜に代わって統べるだろう。ウェス・ターナーおまえのごとき者が竜を屠るのだ。』

この物語が、発達する蒸気機関によって神(的存在)を必要としなくなった世界の担い手を決めるものであることが分かるシーンだと思いました。

運命に囚われた三人の王候補と、運命に囚われない自由を象徴するウェスとガラッド。そんな軸で読んでいくのも面白いかもしれません。

※追記 西部劇、ファンタジー、SF、神話、幻想小説にコズミックホラーと、思うままにジャンルを横断する自由で熱血な作品でした。

作者の広範な知識量に裏打ちされた膨大な設定と文章に引き込まれ、終盤15話は思わず一気読みです(つまり完結するまでしばらく読むのをサボっていた)。

どの登場人物にも譲れない矜持と熱があり、最後は思わずホッと息を吐きたくなる、良い小説でした。

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