第27話 リモコンは別料金
ベネチアの次に向かったのは古代からの記憶が受け継がれる街ローマ。イタリア半島の中心あたりに位置するこの街には、今もローマ時代の風が吹き続けている。ベネチアの駅で新幹線に乗車して3時間もすれば、そこはもうローマ中央駅だ。刺さるような夏の日差しの中、ホテル予約サイトに掲載されえたマップを頼りに石畳の街を歩いていくと、10分ほどでホテルの前に到着した。
ローマでの宿泊場所として予約したのは集合ビルの一部をホテルとして使用しているヨーロッパでよくあるタイプのものだ。ビルの入り口とホテルの入り口、さらにホテルの部屋という3種類のカギを使い分けることになる。当然のことだが、ホテルにたどり着くためには最初にビルのカギを突破しなければいけない。入り口に設置されたインターホンに並ぶボタンからホテルの名前を探し出し、押す。……反応がない。もう一度押す。……反応がない。おいおい待ってくれよと思いながら、今度は予約時に表示されていたホテルの電話番号を引っ張り出して、電話をかける。……悲しく鳴り続ける呼び出し音。出ない。インターホンのボタンを連打する。……やはり反応は返ってこない。
ビルの前で頭を抱えていると、昼食から戻ってきたと思われる数人のグループがビルにやってきた。これを逃してなるものかと彼らに声をかけ、スマホを見せつつ「このホテルに行きたいんだけど…」と聞いてみたところ「そのホテルなら確かにこのビルの4回にあるよ、連れていってあげるよ」と救いの言葉をかけてくれた。ずいぶん緩いセキュリティだなと思いつつも、この時ばかりはそれに感謝して彼らについて4階まで上がると、確かにそこには予約したホテルのプレートがあった。ドアをたたくと少し間があって眠そうな目をしたおばちゃんが鍵を開けて登場した。さては寝てやがったな!
寝ぼけた感じを隠そうともしないおばちゃん相手にチェックインを済ませて部屋に入る。真夏のローマの日差しにやられた体を少しでも冷やすためにエアコンの電源を入れようとするが、リモコンが見当たらない。壁を見上げると、本体はある。でも部屋中探してもリモコンはない。仕方ないのでフロントに戻ってリモコンがないことを伝えると「1日15ユーロ。2日つかうなら20ユーロにまけとくけど、いる?」とフロントの引き出しから取り出したリモコンを人差し指と親指でつまみ、目の前でブラブラさせている。安い宿にはそれなりの理由があるものだというのを久しぶりに味わったローマ初日だった。
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