第23話 バルコニーへの道

 ミラノで一番の観光名所・ドゥオーモは高さ108メートルを誇る大きな教会。周辺には高層ビルもなく、聖堂への入場料とは別にバルコニーへの入場券を購入することで教会の屋根に上ってミラノの街の全景を見渡すことができる。ドゥオーモのバルコニー入場券には2種類あり、一つはエレベータを使って上階まで移動するもの、もう一つは己の脚力を信じて尖塔内の階段を上るものである。もちろん階段使用のほうが安い。

 私の旅の基本方針として、自分の足で登れるのであれば階段を使うようにしている。階段の途中に何か面白いものがあるのではないか、もしそれを見逃してしまったらもったいないという貧乏根性からくるもので、効率よく時間を使って観光したいというのには不向きな性格だ。

 ドゥオーモのバルコニーまでも、悩むことなく階段を使うことに決めたのだが、登り始めてからいつもとは違う雰囲気に気が付く。この階段、特に面白くないのだ……。小窓などから外の風景を眺めることもできない。不揃いな石組みの昔ながらの階段が残っているわけではなく、近年になって補修されたと思われる綺麗で登りやすい階段。ただただ狭い螺旋状の階段を、今どのあたりにいるのかもわからないまま足元だけを見つめてリズミカルに登るしかないのだ。おまけに多くの観光客が唯一の狭い階段をどんどん上がってくるため、立ち止まって息をつくことも許されない。なかなかに太腿に厳しい道程だった。

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