第25話 ケンタウロスを探せ!
ベネチアは本土と島を結ぶ橋を越えると自動車の乗り入れが禁止される。このため、列車が到着したら駅前からタクシーでホテルまで向かうという移動は成り立たない。旅行者はホテルのポーターに迎えを頼むか、自分の荷物を抱えて水上バスと徒歩で移動することになる。リュックと手荷物だけで移動しているような人間にとっては苦にならないだろうが、大きなスーツケースを持った家族連れなどにはかなりの試練となってのしかかっているように見えた。
自力でホテルに向かう場合、迷路のように入り組んだベネチアの路地も旅行者の前に立ちはだかる。海岸沿いの大通りに面した立派なホテルに宿泊するならば問題ないが、奥まった場所にあるホテルを利用するならば注意が必要だ。そもそも場所がわからない、あのあたりだと場所が分かったのに運河にさえぎられて渡れない、回り込んだつもりが元いた位置を見失う。こんなことを繰り返していくうちにどんどん時間だけが過ぎていってしまう。
今回の旅で宿泊したケンタウロスホテルという半人半獣の神話の登場人物の名を冠したそのホテルは、まさにそんな条件にぴったりの物件だった。つまり、迷った。広場に面しているはずなのだが、その広場に立っているのにホテルは見えない。広場の周辺の運河にかかる橋を渡ったり、細かい路地に入ったりしてみるものの、ホテルらしき雰囲気を醸し出す扉は見当たらない。これは参ったなと四方をビルに囲まれた広場の真ん中で空を見上げると、一つの建物の角に何やら小さな真鍮製のレリーフが掲げられているのがたまたま目に入った。馬のような、人のような……ケンタウロスか!?!?急ぎ足でそのレリーフの下に行くと、幅1.5メートルくらいの狭い路地の先、行き止まり見えた壁の側面に扉のようなものが見えるではないか。そう、そこが目指すべきホテルだったのだ。ただホテルを探すだけなのに、子供のころにテレビゲームで隠し扉を見つけたようなワクワクに出会える。そんなべネチアが私は大好きだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます