第30話 青い洞窟に滑り込む

 今回の旅行について出発前に友人と話をしていて、イタリアには行くけどダンデライオン一座が立ち寄っていないからナポリには行かないと伝えたところ「いやいやローマまで行くのにナポリに行ってピザを食べないいとかおかしいって!」と熱いプレゼンを受けたため、ローマの滞在予定を一日短縮して訪問することにしたピザがおいしい街。それが私にとってのナポリだ。

 せっかくナポリまで来たのだから、有名な青の洞窟を見に行こうとアクセス方法を調べてみると、ナポリから船でカプリ島というところまで行き、そこからさらに船で行かなければいけないことをランチのピザを食べながら知る。この時点で時計の針は13時をゆうに過ぎている。むしろ14時に近い。これは急がなければと思うものの、目の前に出された焼きたてのピザは熱い。アツアツのマルゲリータだ。一気に掻っ込むことなど不可能に近い。こうなってはもう仕方ないと、とりあえずは目の前のピザを楽しむことに集中し、ついでに隣のお姉さんが食べていたクリームブリュレがおいしそうだったので追加で注文する。食べ終わった後はフェリーターミナルまでダッシュだなと思いながらピザを頬張りつつ、目的地までの最短経路を店員さんに聞いてみる。すると「タクシーを使えば次の船に間に合いそうだけど、呼んでおこうか?」とありがたいお言葉。タクシーが到着するまでの短い時間でクリームブリュレをしっかり味わい、急いでフェリーターミナルに向かうと、すでに船が港に入ってきているのが見えた。大急ぎでカプリ島までのチケットを買い船に乗り込む。ようやく一息ついたところで、海のきれいさに目を奪われるだけの余裕を持つことができた。

 さて、ここまでは何とか間に合わせることができたが、青の洞窟に向かうために越えなければならない壁がなくなったわけではない。乗船前ギリギリに売店で買ったアイスを食べながら、カプリ島から青の洞窟までのツアーを開催している旅行会社を探してみたものの、当日購入できるものはみあたらない。カプリ島に到着したら直接カウンターにいってみるしかないのだが、どの会社もフェリーが到着してから最終ツアーが出発するまで20分ほどしか余裕がない。おそらく今乗っているフェリーで到着した予約客を乗せて出発するというスケジュールを組んでいるのだろう。

 時間の制約を考えると複数のツアー会社を回っているだけの余裕はなさそうだ。各社の場所を確認し、フェリー到着場所に一番近い会社にターゲットを絞ると、乗船口近くの座席に陣取りグーグルマップをにらみながら移動経路を頭に叩き込む。到着とともに最短経路で目的地に到着するイメージを何度も繰り返した。カプリ島に足を踏み下ろした5分後にはツアー会社に到着していた。カウンターで青の洞窟に行きたいことを伝えると、こんなに簡単でいいのかというほどあっさりとチケットは購入できた。その日最終便の出発5分前だった。

 無事に青の洞窟を満喫した帰り道、面白い光景を見ることができた。青の洞窟は入り口が小さいため洞窟の手前までは20人乗りくらいのモーターボートで向かい、洞窟入り口で4人乗りの手漕ぎボートに乗り換えて内部に入っていくという流れを繰り返す。最終便で観光客が帰るときには、この手漕ぎボートのメンバーも一緒に港まで帰ることになる。その光景がなかなかに興味深いものなのだ。モーターボートから延ばされたロープで小舟を数珠繋ぎにして引っ張っていくのだが、手漕ぎボートでは考えられない速度で海面を疾走するものだから、ものすごい高さまで跳ねあがり、水しぶきで乗員がずぶぬれになっているのだ。しかしそんなことは気にもせずに速度を上げるモーターボート。慣れた感じで小舟にしがみつく乗員。ちょっとしたアクション映画の脱出シーンだといっても通用しそう世界が目の前に広がっていた。

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