第15話 ジャンヌ・ダルクを訪ねて
ダンデライオン一座の団長ゲオルグがトレジャーハンティングのために訪れたのがドンレミだ。ジャンヌ・ダルク生誕の地として知られるこの街だが、ジャンヌ関連の観光客はオルレアンに向かうことが多いらしく、ドンレミの街には静かな日常が流れている。
生誕の地なのになぜ観光客が少ないのか。理由は簡単、行くのが大変だから。パリからドンレミに行くためには、TGVでフランス東部のレンヌまで行き、そこからローカル電車でヌフシャトー駅まで南下する。このローカル電車も今は運休状態で、代行バスでの移動になる。ヌフシャトー駅からドンレミまでの公共交通機関は週に2往復する路線バスのみ。ほとんどの観光客はタクシーを使うことになるだろう。今回の旅でも駅前でタクシーを拾おうと考えていたのだが、その考えが甘かったことを思い知らされる。タクシーなどいないのだ。スマホのタクシー配車アプリを使えば大丈夫だろうとも思ったが、この小さな町では対応しているドライバーは見つからない。
ヌフシャトーからドンレミまで片道1時間以上の道程を歩くことも覚悟しつつ、暇そうにスマホを弄っている駅員にドンレミまで行きたいのでタクシーを呼んでもらえないか聞いてみたところ、少し待ってと言い残して事務所に入っていってしまう。5分ほど待っただろうか、電話をしながら戻ってきた彼は、「往復だよね?何時間くらいドンレミにいるの?」と問いかけてきた。どうやら彼にお願いしたのは大正解だったようだ。10分後には陽気なおばちゃんが運転するルノー車に乗ってドンレミに向かって出発していた。
おばちゃんは助手席に置かれたかばんから取り出したサンドイッチを片手で器用に食べながら、どこから来たのか、名前は、何をしに来たのか、怒涛の勢いでとにかく喋りまくっている。英語とフランス語が入り混じっているが、なんとなく意味は伝わっているのでこちらも明日のナージャという作品の舞台を回っていることを伝えると「この村まで個人で来る人はだいたい変わり者だから、そういうのも面白いかもね」と大声で笑いながら答えてくれた。
途中でジャンヌのために建てられという教会に立ち寄り、ドンレミラピュセルに到着したのが11時頃。車から降りようとすると、タクシーのおばちゃんに呼び止められた。支払いはドンレミからヌフシャトー駅まで帰ってから往復まとめてという話だったと思うけど聞き間違えたのかなと思ったが、全然そんな話ではなかった。おばちゃんはごそごそとカバンのなかを探しているかと思ったら、「この辺りにはランチが食べられる店がないから迎えに来るまでこれで我慢しときなさい。ヌフシャトーに戻ったらいいカフェに連れてってあげるから」とラップにくるまれたサンドイッチを手渡してくれた。なるほど、さすがジャンヌ・ダルクの町だと妙に感動する一幕だった。
なお、ドンレミを堪能した後に連れて行ってもらったカフェの食事は最高だったのだが、デザートを運んでくるときに店員さんが野良猫に気を取られたため積み重ねられたミルフィーユが残念なことになってしまったのも、ちょっと面白い記憶としてとどめておきたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます