第2話 インドのおじさんに救われる

 ダンデライオン一座の足跡を巡る旅のスタート地点になるのがイギリス。まずはイギリスまで行かなければ何も始まらない。今回の旅では日本からイギリスまでの経路として中国南方航空で羽田を出発して広州まで行き、広州からロンドンに向かうルートを選択した。このルートは交通費を節約できる利点がある反面、広州で14時間の乗り換えが発生するため所要時間が長くなるといいう欠点がある。そもそも14時間も待つのはつらいのではないかとも考えた。しかし、中国南方航空は条件がそろえば無料のトランジットホテルを用意してくれるサービスを提供しており、これを利用して空港から少し離れたホテルで一泊することにした。これが原因でスタート地点にたどり着く前にいきなりのピンチに見舞われることになる。

 「一泊だけだし中国元はいらないだろう。ホテルならクレジットカードが使えるだろうし。」と余裕の気分で送迎バスに乗車し、15分ほどでホテルに到着。チェックインを済ませてホテルのレストランに向かうと、まさかの20時閉店で入店できない。近所にクレジットカードが使えるストランもなく、ホテルの売店は中国元での支払いにしか対応していないためカップ麺を買うことさえも許されない。両替できないかフロントに聞いてみたものの非対応だと冷たくあしらわれる始末。さあ困った、このままでは旅行の初日からいきなり夕食抜きになってしまう。

 「これだけで一晩過ごすのか……」と空港で買ったペットボトルの水を片手にフロント前で唸っていると、ロビーでスマホをいじっていたおじさんが英語で話しかけてきた。なんとこのおじさん、「米ドルあるなら人民元と交換してあげるよ」と素晴らしいことを言ってくれるではないか。もちろん二つ返事でオッケーだと返すとともに、ありったけの感謝の言葉を連打する。話を聞くと、どうやら彼は翌朝のフライトでインドに帰るから人民元はもう必要ないということで、困っていた私を見かけて声を変えてくれたということだった。本当にありがとうインドのおじさん。

 このおじさんからは、クレジットカードは使えないけど交渉すれば米ドルで払えるかもしれないというレストランの情報も教えてもらった。おじさんと別れてさっそくその店に行き、これがおいしいよとおじさんが書いてくれたメモを店員に渡して注文完了。テーブルに運ばれてきた料理はおじさんがおすすめしてくれただけのことはあり、とてもおいしい。これが本場の中華料理かとモリモリ食べていたが、じわじわと辛さが口の中に襲い掛かってくる。おじさん、辛いなんて一言も言ってなかったのに……。辛いのに強かったんだな、そうだよなインドだもんな。

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