第35話 おいでよ生ハムの森

 スペインに入ってからバルセロナとグラナダを渡り歩いて4日ほどしかたっていないのに、自分の中で何か違和感というか、価値観の変化のようなものが起こっていることに気がついた。その違和感のもとになっているものは、生ハム。そう、生ハムなのだ。フランスやスイス、イタリアでも生ハムは食べてきたしおいしいと感じていた。それがスペインに入ってどう変わったのか。味か?いやもちろんスペインの生ハムはおいしい。でもそこではない。ではなにか。端的に言えば、あまりにも生ハムが日常にあふれすぎていて、心のどこかでにあった「生ハムのありがたいもの」という概念が目減りしていたのだ。

 朝食を食べようと街のカフェに入りサンドイッチを頼めばバケットの間からこぼれ出るほどに詰め込まれた生ハムがあり、チーズと生ハムの盛り合わせを頼めば一人でこんなに食べきれるのかというほどの生ハムが盛られている。昼食を食べに入ったバーの天井を見上げれば大量の生ハムが吊り下げられている。小皿料理を頼めば生ハムが乗っている。なんというか、日本でいろいろな料理に鰹節をかけるぐらいに気軽さなのだ。国が違えば食文化が変わる。そんな当たり前のことをあらためて実感した日々だった。

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