第17話 ツェルマットの嵐

 スイスと言えばアルプス山脈。どこまでも連なる山々。日本を離れる直前までは、山あいの村を軽く眺めるくらいで通り過ぎる予定でいた。そんな話を友達にしたところ「そんなところまでわざわざ行くのにツェルマットを素通りするとかおかしい!」と言われてしまい、そんなものかと計画を変更してアルプスのふもとの町・ツェルマットに立ち寄ることにした。

 ツェルマットはマッターホルンをきれいに見上げることができるスイスでも有名な観光都市。町の外れから出ているリフトに乗れば、30分もかからずに標高3000メートルを超える展望台まで登ることができる。また、リフトの途中駅からツェルマットの町まで簡単なトレッキングもできると聞き、せっかくだから両方楽しむことにした。ツェルマット初日はモントルーでしっかり観光した後に出発したため、到着したのはすでに夕方。この日はゆっくり休んで、翌朝リフトが混雑する前を狙って早朝にホテルを出発することにした。リフトに乗って終点のマッターホルン・グレイシャー展望台につくと、すでに観光客がスイスアルプスの眺めを楽しんでいる。真夏とはいえ標高3000メートルなのでかなり冷え込む。そんな場所で団体客の波が過ぎ去るまで寒さに耐える。キラリンとピカリオを使った写真を撮るためだ。20分ほど待っただろうか、数人の個人観光客だけとなったタイミングを狙ってキラリンとピカリオをカバンから取り出す。撮影ポイントは待っている間に決めてある。すべては迅速に進め、シャッターを切る……はずだったのだが、ここで予想外の出来事が起こる。展望台の手摺に2人を乗せて位置調整をしていると、ベンチに座って山を眺めていたお姉さんがスッと背後に忍び寄ってきた。「あなた、面白いことしてるわね!それとってもクリエイティブだわ!」と思いがけない言葉を勢いよく発しながら背中をたたかれる。なるほど、そういう捉え方もあるのかと感心しながら撮影を済ませると、今度は「ねえ、私にも撮らせてよ!あ、あとこの子たちと一緒の写真も撮ってね!」とまさかの申し出を受ける。断る理由もないので彼女の撮影が終わるのを待って、彼女のスマホで3人の写真を撮ると、「ありがとう!いい写真たくさん撮れるといいね!」と言い残して笑顔で去っていった。嵐のような人だった。

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