第19話 時間差攻撃
老紳士から生ハムとチーズをいただいた翌日の夜、昨日とは別の店で食べようと歩いていると、オープンテラスに大型モニターを置いてワールドカップを流しているバー&レストランを見つける。スイス戦を中継していた昨日よりも断然盛り上がっており、どこの試合をやっているのだろうとのぞいてみると、流れているのはドイツの試合。ツェルマットはドイツから列車や飛行機で気軽に訪れることができる場所、当然ドイツからの観光客も多いからこその盛り上がりなのだろう。せっかくなので盛り上がりを体験していこうとこの店で夕飯を取ることにしたのだが、この後面白い現象を体験することになる。
当然ながら試合は生中継、この先に何が起こるかわかるはずもないのだが、この店においてはその限りではない。未来が見えてしまうのだ。なに、理由は簡単。道路を挟んだ向かいにあるバーでもワールドカップの中継を流しているようなのだが、どうもお向かいのほうが10秒ほど映像の到着が早いのだ。チャンスで盛り上がっても、お向かいの落胆の声で「ああ、このチャンスでは点が入らないんだな」と悟ることができてしまうのだ。何とも簡単な時間差攻撃だ。未来予知ができてしまう人間というのは、もしかしたらこんな風に味気ない人生を送っているのかもしれない。子羊のソテーにレモンソースをかけたものを食べながらそんなことを考えていた。そしてドイツは負けた。
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