第41話 おっちゃんのミニバン

 ギリシャ最終日の朝。この日は早朝のフライトでミコノス島からアテナに移動し、アテナから次の目的地・エジプトへの飛行機に乗り換える予定だった。ミコノス島の空港へは街の中心部から少し離れた場所にあるバス停から定期バスが出ており、ホテルからバス停まで30分ほど歩くつもりでいた。

 ホテルをチェックアウトして歩き出そうとしたところで、通りの向かい側にある売店のおばちゃんに声をかけられた。早朝から荷物をもって歩いているのが気になったのか、どこに行くのかと尋ねられる。空港へ行くバスに乗りに行くと素直に答えると「あんな場所まで歩いていくなんて大変だよ!ちょっと待ってな!」と大きな声で言ったかと思うと店の奥へと引っ込んでしまった。そのままおばちゃんを放置して立ち去ってしまうのも気が引けたので、おばちゃんの店に並べられているバナナを眺めながら待っていた。すると、どこから引っ張ってきたのか、眠そうな顔をしたおじさんと一緒に戻ってきたかと思うと、相変わらずの大きな声で「この人、今から仕入れで車を出すからバス停まで乗っけてってもらいな!」とありがたいことを言ってくれるではないか。このおじさんの眠そうな顔、どう見ても今から仕入れに行く予定なんてなかったのに寝ていたところをたたき起こされたようにしか見えない気もしたが、せっかくのありがたい申し出に水を差してはいけないなと、素直にミニバンの助手席に乗せてもらうことにした。バス停までの道中で仕事に向かうようなお姉さんと、小学生くらいの子供を乗せてあげていたので、もしかしたら本当に仕入れ作業に行く途中で毎朝近所の人を乗せて行ってあげているのかもしれないが、本当はどうだったのか聞き出せないままバス停に到着してしまった。そんな感じでギリシャのおじさんとおばさんの親切に助けられながら午前9時の飛行機に乗り込み、白壁で埋め尽くされたミコノス島に別れを告げてアテネへと舞い戻った。

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