41.夢の中で
まどろみの中。歌詞を呟く。
僕は夢の中にいる。
向こう側には丘がある。色とりどりの花に包まれている丘がある。白い花、黄色い花、赤い花。
目に飛びこんでくる花々は、競うことなく、調和の中で溶けている。
優しい風が通り過ぎると、花びらが吹雪ように舞う。僕は漫然とその景色を眺めた。背中には暖かい日光があたっていた。
見渡せば、僕の後ろに丘がある。花々に包まれ命の息吹を感じさせた。
丘の上に目を移すと、そこに秋穂が立っているのが見えた。
彼女は笑っていた。黒めがちで、いたずらっぽい目を輝かせて、僕を手招きしている。
走った。
転んだ。
立ち上がって、また走った。
丘はそれほど高くない。だけど、もっと早く走りたい。秋穂の所に早く行きたい。
僕は彼女の胸に飛び込んだ。秋穂は綿のように柔らかく、僕を優しく包んでくれた。
暖かい香りがした。
安全だ。
もう、僕は安全だ。
心が休まる。
彼女がいなくなってから、痛みを感じないはずの、僕の心はずっと悲鳴をあげていた。
それがようやく聞こえなくなった。
顔をあげると秋穂が僕を優しい目で見つめてくれている。
それは春のように暖かく、僕を全てから守ってくれる。
彼女を逃がさないように、でも彼女を壊さないように、指先にそっと力を入れた。
「秋穂、僕は君を愛している。僕には君が必要だ」
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