34.バック・トゥー・ザ・パスト

 僕は記憶を遡る。





 メルキアデスが、靴を舐めた後の会話――



 僕は王として返り咲いた時、皆の視線は僕に釘付けだった。

 崩れかけたビルの中、僕とメルキアデスは会話した。


「ここは警察に完全に包囲される。僕達は逃げられなくなる」

「どうすればいいんだ。ボス、教えてくれ?」

 懇願するメルキアデス。僕は靴を彼の前へと差し出す。

「まず、僕の靴を舐めろ。話はそれからだ」


 メルキアデスが靴を舌で磨くのを確認し、僕は微笑みを浮かべた。


 他の面々は直立している。

 睨むと体の前で手を組み、真っ直ぐに前を見るようになる。

 視線を動かすと、僕を囲むようにして、隊列ができあがった。息声すらしない。


「いいか、思い出せ。この前の誘拐の時に、インド人の住むエリアに警察が踏み込んできた時に僕は何をした?」

「何だ。言ってくれ。俺は頭が悪いんだ。ボスのように頭が回らない」


「僕達はここを動けない。外国人街から動けない。それほどまでに警察は徹底的で完璧な布陣をするからだ。だが、ここにいない奴なら話は別だ。それは劉と王だ」

「奴らに何をさせるんだ?」


 汗を滲ませメルキアデスが僕に聞く。

 全ての耳が僕の方を向いている――


「彼らの下には覚醒剤の販売網がある。その連中を使って、若い奴らに情報を展開させている。そして、集まるように言っている。若者が多く居る、大きなテレビがかけられている街にだ。


 ロンドン暴動を知っているか?

 アラブの春を知っているか?

 ジャスミン革命と言われる暴動を知っているか?

 先日、渋谷で発生した騒乱を、もっと激しくしたのが暴動だ。


 あれをやってやるんだよ。麻薬販売網に引き寄せられてる奴らは社会の不満が溜っている。

 そこにはネガティブな感情が沈んでいる。麻薬販売網を通じて連絡をしている、どこどこに行くと、世界が変わるとな。


 集まった連中を利用して、そこで暴動を起こす。

 フラッシュ・ライオットでも言えばいいだろう。


 フラッシュ・モブで集めた連中を核にして、徹底的に煽ってやる。


 所得格差。

 政界の汚職。

 財界との癒着。


 なんだって構わない。どうだって構わない。


 あらゆる手段をもって負の感情を拡散させ、ネガティブな感情を刺激する。

 麻薬販売網を軸にして、フェイスブック、ツイッター、掲示板、SNS、ネットを駆使して情報を拡散させる。


 彼らは奴隷だ。毎日這いつくばって、嫌な目をしていているからな。

 憤懣ふんまんも溜っていせ、憎悪で身を捩らせている。

 苦しい苦しいと彼らは毎日血の涙を流している。


 僕達が警官を大量虐殺した時、それはテレビを通じて報道されるだろう。


 その後、十人ほど覚醒剤中毒の連中を使って、店のガラスを破らせる。

 放火をさせるのでも構わない。なんだっていい。


 不満を持った連中の前で小さな騒ぎを起こしてやる。


 警察は外国人街に集中しているが、複数同時に違う場所で暴動を起こせば、どうしようもなくなる」

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