Public Enemy Inc.

綾川知也

Main Track

00.Ground Zero

 コンテナから人が落ちてきた。


 ここは船着き場。

 僕は何をするでもなく、船からの荷下ろしを呆けたように見ていた。

 河口には死にかけの船舶が並んでいる。

 トレーラーぐらいの大きさの船体は腐りかけていて、鉛色の川に今にも沈みそうだった。


 ぼやけた緑色の塗装が剥げ、錆の浮いているドライコンテナがクレーンに吊るされ、風鈴のように揺れている。

 突風に吹かれ、コンテナはその身を一際大きく震わせた。


 すると、コンテナの扉が哀しげな悲鳴あげて開き、人を吐き出した。

 まるで嘔吐をしているかのようだった。


 コンテナから人が落ちてきた。

 折り重なるようにして。

 溢れるようにして。

 

 シャツであったであろうボロ切れをまとったそれらは重力に引かれ、地球に向かって落ちてきた。


 ある者は口を大きく開け、ある者は手を振り回したが、待ち受ける運命は同じ。


 雲一つない、真っ青な空を背景にして、落ちてくる人間達。

 現実離れした、その景色はとても幻想的で、まるで夢を見ているかのようだ。

 コンテナから吐き出された人間。

 コンテナマンはコンクリートに叩き付けられ、陶器を割ったような乾いた音をたてて死んでゆく。


 潮の臭いを含んだ風は、肌にまとわりつき、不快だった。

 けれど、そんな不快感も吹き飛んだ。


 なんて刺激的な光景なんだろう。


 僕の悩みも翼を生やして、頭の中から飛び去った。

 スマホを取り出し、その有様を録画する。


 コンテナマンの頭蓋が、割れた西瓜のように裂けている。

 溢れて落ちた目が僕の意識を貫く。

 その死体。

 もの言わぬ屍が、僕に語りかけてきた。


「Look at me」


 これが人生なんだ。


 何故だかわからないけれど、僕はそう思った。


<Opening Music>

 (15/10/2018 安全確認済み:R18・グロテスク表現あり・暴力シーンあり)

 https://www.youtube.com/watch?v=DOj3wDlr_BM

</Opening Music>

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