35.Public Enemy Inc.

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PALY▷


 君は自分の生活に満足しているか?


 僕は仙道。

 仙道達也だ。


 誘拐犯であり、爆発テロの主犯者だ。


 テレビやネットでは、僕の事を凶悪犯と言っている。

 いいだろう。

 それは否定しない。僕を何と呼んでもらっても構わない。


 だが、聞いて欲しい。

 僕がどうして、そんな凶悪な犯罪を行ったのか?

 僕がどうして、そんなにも追いつめられたのか?


 僕は高校生だ。

 普通の高校生だ。

 君達の前の席にいる。

 電車に隣にいる。

 下校時に先を歩いている。

 ごく普通の、どこにでもいる高校生だ。


 その普通の高校生の日常を聞いて欲しい。


 学校で死ぬ程勉強したにも関わらず、求職雑誌にはろくな就職先がない。

 正社員など夢のまた夢だ。賃金も安く、テレビで見ているセレブな生活など手が届きもしない。


 バイトの面接では馬鹿にされ、落とされ、何度も履歴書を書く。

 仕事に出ると、灰色の時間の始まりだ。

 低賃金で奴隷のように働かさせられる。

 そして、一日の終わりに店長に言われる。今日もサービス残業だ。


 嫌な顔をすると、仕事に対しての熱意が足りないと言われ、給料が下げられる。

 下手をすると首になる。四つん這いになって、忠誠を誓わせられる。

 彼らの言葉を僕達の言葉に翻訳するとこうだ。ケツにキスしろ。


 恋人に結婚を迫られても、僕には不安が一杯だ。

 積み上る国債。放置される年金問題。介護に医療。社会に問題は満載だ。

 家庭を持てない不安な僕らに、馬鹿げた尻拭いをさせられる。


 得られた金は少ないのに、取られる税金は増えるばかりだ。

 税金は増えるばかりで、減らされる望みもない。

 

 手元に残った金で食うだけで精一杯。遊ぶ金も残りやしない。

 子どもを育てるだなんてもっての他だ。求人広告欄を見れば、生活が維持できる夢が壊される。


 それでも、彼らは僕の少ない財布を覗き込んで、ニッコリ笑ってこう言う。

 これは国民の義務なんだ。

 これは仕方がない事なんだ。


 振り返って社会を見てみると不正行為が当たり前のように蔓延している。

 天下りが当たり前のように行われ、彼らは何千万の給料を手にする。

 数年すれば、そこを辞めて退職金でまた何千万。

 僕の十年分の年収を一瞬で稼ぎ出す。


 財界と癒着して、法をねじ曲げ、僕達は不当に搾取されている。

 会談と称し、彼らはいつも自分の金庫ばかりに注意を払うだけだ。

 僕達のはいつだって捨て置かれ、分け前にあるつけることがなんて決してない。


 マネーゲームやいい加減な電力会社で損失がでると公的資金の出動だ。

 僕の少ない財布から抜き取られた金が、いい加減な連中に湯水のようにつぎ込まれる。


 放漫経営をした連中は裁かれる事もなく、ほとぼりがさめたら、違う企業の役員として就任する。

 罪人である奴らの前に、また何千万という金が積まれる。


 脱税したり、不正献金を受けた連中がは裁きを受ける事も無く、当たり前のように選挙に出てきて当選する。

 不正をしたにも関わらず、彼らはまた不正を繰り返す。


 識者がしたり顔で聖職者のような正義を唱えてみても、それらは皆大嘘だ。

 スポンサーや権力者の不正やスキャンダルになると、言葉をつぐんで黙り込む。

 暗黙の了解とばかりに、僕達の知らない所で、事実は闇へと葬られ、差し支えない程度でしかコメントを挟まない。


 そんな彼ら。

 ダブルスタンダードを恥じる事もない彼らが正義の代弁者を気取って僕を説教する。

 彼らのポケットには汚れた金で一杯だ。


 僕は家に閉じこもる。空調は利かず、空気は汚れたままだ。

 盛りのついた猫が騒ぎ、今日も上に住んでいる奴が喧嘩をしている。


 外に出ると不審者と疑われ、友達と集まって話をしていると、雰囲気が良くないと胡散臭い目で見られる。


 僕に希望が見えるか?

 いいや。僕に見えるのは絶望だけだ。

 青空の下、僕は色の消えた世界で飼い殺されている。

 僕は蔑まれ、馬鹿にされ、貶められる。


 そんな毎日を過ごす。

 機会を与えられず、プライドは汚され、僕の手はボロボロだ。


 僕はどうするべきだ?


 このまま、言いなりになって生きていくべきか?

 頭を下げて、しょぼくれて生きていくべきか?

 暗い路地で一人で死んでいくべきか?


 僕は嫌だ。

 僕は絶対に嫌だ。


 逃げるだけでは何も解決しない。

 今までの僕がそうだった。


 だから、僕は反逆をした。この国に、この社会に、この世界に。


 悪と呼ばれる鉄槌を下した。


 富を見せびらかす富裕層に裁きを与える為に。

 力を振り回す権力者に裁きを与える為に。

 命の重さを知らない連中に、命を預けなければならないシステムを壊す為に。


 そして、なにより、

 自分が自分である為に。

 また、生まれてきた意味を得る為に。


 メディアは僕の事を社会の敵だと言う。

 パブリック・エネミーだ。


 僕は、僕達の事をこう名乗る。

 パプリック・エネミー・インク、と。


 だが、本当の敵は誰だ?

 僕達が対決しなければならない相手は誰だ?

 僕達を騙していた奴は誰だ?

 これからも騙そうとしているのは誰だ?


 僕一人だけだとわからないが、君が来れば社会が変えられる。

 君と僕だったら変えられる。


 目には目を。

 歯には歯を。

 不正には不正を。

 悪には悪を。


 人生を取り戻せ。

 人間だった事を思い出せ。

 自分が誰か思い出せ。


 荒ぶれ。

 猛ろ。

 吼えろ。

 

 パブリック・エネミー・インクは僕だ。

 君だ。

 僕達だ。



………………REPLAY?

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