第11話 正妻は強い
俺と零はその後も色々と巡った。雰囲気のよさそうなカフェを施設内(上層階)で見つけたために小休止とそこへ入った。四人テーブルの俺は椅子席に零はソファ席に腰を掛けた。俺はカフェオレで零は抹茶ラテを頼んだ。
「はぁ~、なんか俺がよく行ってたコーヒーショップを思い出すなぁ。あれから結構経ったからな。」
「それってあのビルですか?」
「そうだよ、零に初めて逢った、あの爆破ビルだよ。」
「涼さんはあそこの常連なんですか?」
「うーん、どうだろうね。気晴らしとかテスト前に行ってたね。なんか落ち着くんだよね。今は、テスト前って言うとね………。」
俺のテスト前の日々の過ごし方は中学とは別物になってしまった。中学の頃はテスト前はそれに向けての勉強と息抜きに科学雑誌に載ってる数学や物理などを読む、まぁゆっくりとしていた。しかし、高校では最初こそ零とデートを兼ねて図書館などで勉強していたが、今では放課後に勉強会が強制参加となってしまった。俺は一度ハマると時間を忘れるタイプなので24時間勉強などということもしている。テスト前になると零の構ってアピールも色濃くなるから、今年はいろいろ変えていこう。
「涼さん、テスト前だと私に構ってくれないじゃないですか~、最初は図書館とかで勉強デートできたのに。しかも、24時間勉強とか勉強会とかやり出して………私は同じクラスじゃないからどんなにつらかったか。」
「勉強会もね、なんか人数増えてね。零も混ざれば良かったのに。」
「同じクラスでも無いのに行ったら変じゃないですか?今だから、私と涼さんが恋仲って察している人が大半ですけど、前は女同士の争いでヤバかったんですから………。」
「さいですか。」
「更衣室とかかなりすごかったですよ。雅さんも苦労してましたし。私も裏では何を言われているか。涼さん、結構人気あるんですから………。」
「俺は葉山じゃないんだ。んなモテた覚えがないよ。」
「とにかく、涼さんは私にだけ教えていれば良いんですよ。最初は、雅さんと30位~40位くらいで一緒に喜んでいたのに、今では20位キープですよ。なんでも葉山君に色々教えてもらったそうで、いいなぁ雅さんは。私の愛する旦那様は妻の勉強よりクラスの勉強会の方が大事な様ですし………。」
「最後、言い方ね。葉山と最初は交代でやるはずだったんだよ、でも、女子が多くて雅に怒られるからって俺に丸投げしたんだよ。先生方もたまに来たからやってたけど今年はやる気ないよ。」
「では~」
「あぁ、図書館だろうがなんだろうが勉強にお付き合いしますよ。可愛い奥さんのためにね。」
「可愛い……奥さん♡や、約束ですからね。」
「へいへい」
なんか俺も狂ってきたな。奥さんとか言ってるあたり結婚前提じゃないか。まぁこんな人と結婚できる俺は幸せなんだろうが。
「萩原様、ここにいらしたのですね。探しましたよ。」
「えっ」
俺は綾香さんに椅子ごと倒された。シースルー気味のドット柄の黒い服に、肌色のショートパンツに生足。中学生にしては攻めすぎでは。
「お約束通り、私を可愛がってください。ちゃんと準備もしましたし、とにかくまずは私の部屋で♡」
「あぁ、ごめんちょっと予定ができたから………」
「そんな事、仰らずに。ほら、どうですか?そちらの貧相は体の方よりずっと揉み心地が良いかと思いますが………。」
俺は、手を取られ、そして綾香さんの胸へと持っていかれた。
「ちょっと、涼さんに何をしているの?」
「見てわかりませんか?私の体を堪能してもらおうと」
「涼さんは昨日、ずっと私を愛してくれていたんですよ。今更、あなたの体なんて」
「どうせ、抱いてくださいって自分から頼んだんでしょ。萩原様はお優しいからそんな胸でも抱いてくださったんでしょ。」
「涼さんから、襲われたんです。それに朝だって私のことを。」
女子二人の言い争いを見ることしかできない。良かったよ、客がいなくて。てか、マスターがすんげぇ楽しそうなんだけど。カフェオレ美味くて渋めだからカッコいいなと感じた俺の感動を返して。
零は埒があかないとし、最後の作戦に出たらしかった。
「あっ、東雲零ですけど、昨日のあれ送って貰えます?」
零は電話をして、少し画面操作をした後、俺と綾香さんにだけ見えるように音が聞こえるようにして動画を再生した。かなり暗い画面だった。月明りで少し様子が見える箇所もある。
「あぁ~涼さん、すごいです~、こんなの~あぁん♡」
これって昨日やつじゃねえかーーー。どこから入手した?。零はいったん停止して。
「おじいちゃんの部下の人にお願いしました。」
「いつの間に」
「涼さんとの思い出のためにちょっと♡、あっでも重要なのはここじゃないので飛ばしますね。」
と零は動画を早送りしていき、最後の方へ。露天風呂から出たあたりだった。なんで露天風呂のところでしっかりカメラ視点がチェンジされてるの、あと何このカメラワーク、悪意しか感じない。
「涼さん、これじゃお風呂に入った意味が………」
「仕方ないだろ、零のあれ見たらまた我慢できなくて」
「そんなに私が良いんですか?」
「あたりまえだろ」
「そうですか♡じゃあ、あぁん、涼さん、いきなり過ぎます。」
「あっ、ごめん。」
「あの子とどっちが涼さんの好みですか?」
「そんなの零に決まってるだろ!」
「あぁん♡嬉しいです♡じゃあ、私と結婚したいですか?」
「零と結婚………したい」
「えっ♡なんて言ったんですか?」
「はっ、はっ、俺は零と結婚したい、聞こえた?」
「はい♡聞こえました!じゃあ………?、……?」
「零、俺そろそろ………」
「じゃあ、最後です。涼さんのお嫁さんは誰ですか?フルネームでお願いします♡。
「東雲零です!」
「合格です♡」
「あっ、ヤバい」
「あぁん♡もう~涼さんったら♡何回目ですか♡これじゃ結婚する前に赤ちゃんが出来ちゃいますよ♡」
俺は零にのしかかる様にして、零は俺の腰を両足でホールドしているのがうっすら見えた。そしてバタッと倒れる音と俺らしき寝息が聞こえて動画は終了した。多分、俺が意識を失ったあたりだろう。そう、なんか俺、風呂で零に水みたいなの飲まされてからあんまり記憶ないんだよね。零に朝、聞いてもお部屋に備え付けの水ですよとしか言われなかったが、絶対になんか仕込んだな。
「なによ、これ?」
「涼さんと私の愛の営みです。あなたには刺激が強すぎました?」
「そんなぁ~。それに東雲って、え、まさか」
「えぇ、そうよ私はここの九割の株を持ってる東雲五十六の孫なの。あなたやあなたのお父さんなんておじいちゃんに頼べば簡単に切れるのよ。」
「えぇ~」
零が怖いのか、綾香さんは俺により密着してきた。それは零に逆効果なのは言うまでもないようで。
「なに、くっついてるのよ。さっさと離れなさいよ。涼さんは私の旦那様なの。涼さんの妻は私なの。だから、くっついていいのは私だけなの。」
「は、はい」
あまりの語気と零の表情から綾香さんは俺から即座に離れた。俺は椅子を直して立ち上がると、零は俺によってきて、俺の腕をぎゅっとした。
「あぁ~あ、匂いがついちゃた………。私の匂いにしないと」
零は自分の体を俺にすりすりと擦りつけて来た。すると、零は笑顔でもう大丈夫と言って今度はまた冷ややかな顔で綾香さんを問い詰めた。
「あなた、なにをしたか分かってるの?」
「すみませんでした!」
「なに、他人の旦那様に手出してるのよ。分かってるの、ご両親からも結婚の許可は頂いてるのよ。」
「本当にすみませんでした、まさか東雲様とは。」
「零、そろそろもういいんじゃないか。綾香さんも零にあと無謀なことはしないだろうから。」
綾香さんは土下座の姿勢で零に謝罪しており、そろそろヤバいので助け船を出した。綾香さん、めっちゃ頷いてるし。
「涼さんがそう仰るのでしたら。良かったですね、涼さんがお優しくて。今度何かしたら承知しないから、分かった?」
「は、はい」
「じゃあ、早く消えて。ここで涼さんとデートだからさ」
「は、はい」
そして、一瞬して綾香さんは消えた。すると、零は席を変えましょうと俺を景色の見える席に促した。そこには、VIPと書いてあるゾーンだった。周辺の景色を一望できるようにかなり大きなガラスに木目調で落ち着きのあるテーブル。そして、大きめのソファが五席ほどあった。零は、俺を先にソファに座らせ、そして足の間に零が小さくなって座った。
「カフェオレと抹茶ラテ、淹れなおしてもらえます?」
「か、かしこまりました。」
マスターも恐れをなしているようだ。笑顔が引きつっている。そして、キッチンへと駆け足である。
「涼さん、今度お仕事の時はもっと気を付けてくださいね。ああやって迫ってくる人がいるんですから。いいですか?」
「うん、気を付けるよ。」
抹茶ラテとカフェオレが届き、零はまた一回り小さくなってカップに口をつけていた。
「約束ですよ。涼さんにもあんな風に怒るかもしれませんよ。」
少し悲し気に振り返った姿が愛おしく後ろから抱きしめてしまっていた。後ろから他のお客さんの入る音が聞こえて、腕をほどいた。
「まだダメです。ずっとこうしててください。」
俺の腕は、また零を抱きしめているようだ。
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