第52話 夏の勉強合宿(中編)

 夏休みを自宅で過ごすときには、どんな服装になっているのが正解なのであろうかと疑問に思ったことはないだろうか。

 俺はいつも思っている。何なら学校がある普段の土日や、家に帰った後の風呂に入る前ですら考えてしまう。スウェットの心地良さを至高と思っていると、他のものは着づらさが勝ってしまうのだ。

 その点、零はいつも可愛いらしく、センスに満ち溢れた服装のために申し訳無さを感じる場面がある。



 「ねぇねぇ、萩原君?」


 「なんだ?」


 「零ちゃんって家だといつもあんな感じなの?」


 零が料理を作ってくれている最中に、俺と雅はリビングのソファで休憩というのか出来上がるのを待っていた。


 「あぁ、料理は零が基本的に作ってくれているが」


 雅は俺に対して愚問とも言えることを聞いてきた。だって、零の料理が美味いんだもんな。


 「いや、そうじゃなくて。零ちゃんの服装だよ。」


 「服装?」


 「そうだよ。あんなに肌出してる零ちゃん見たことないよ。」


 そういえば、よくよく見るとこの頃は零にしては結構露出の多い服を着ているなと感じた。上は、へそ出しのオフショルダーで下はかなり短めのショートパンツ姿である。

 男であれば誰しもが涎でも垂らしながら見ること間違いなしである。そんじょそこらのモデルでは相手にならないスタイルなのだから。


 「そういえば、そうだな。」


 「零ちゃんスタイル良いから軽くモデルできるよね。」


 「だろうなぁ。」


 もしこんなモデルがいるのならば、写真集が出た時は一番に書店に駆け込む自信があった。


 「零ちゃんは足も細いから、多分あれだと座る時とかは下着見えるよね、まぁ上も相当攻めてるけど。」


 「あぁ、まぁ家だからな。」


 雅の言うことは正論である。だがしかし、早朝からすでに下着なら見えてしまっていたので大体分かる。それに、零の場合は俺が「下着見せて」と言えば簡単に見せてくれると思うんだよな。酷い表現をすると、「ヤらせて」と言えば簡単にベットインできる感じに近いな。


 「もし、零ちゃんの写真集とか出たら買う?」


 「愚問だな。もちろん買うし、何なら書店に一番乗りだ。」


 「さすが、萩原くん。」


 零が手の込んだ料理を作っている最中に俺は女子と何という話をしているのだろうか。そして、何をよく分からない妄想を抱いていたのだろうか。

 料理を作っている零の邪魔にならないように、雅と談笑しながら、食事が完成するのを待ちわびていた。


 「お待たせしましたー。」


 テーブルに姿を現したのは、ざるそばであった。和食が好きな俺にとって、そばという麺類は特に好きである。そば通ぶったものが、春から夏のそばは風味が劣ると蘊蓄を垂らしているが知ったことではない。美味いものはいつ食べても美味いのだ。ましてや、和食においては敵なしの人間が料理しているのだから尚のことである。


 小綺麗に盛り付けられたそばに、食欲を唆る香りを纏ったつゆ、寸分違わずに整えられた薬味。うーん、非の打ち所がない究極のそばである。


 「マジ、これめっちゃおいしい!!」


 雅が大きな声をあげる。おいおい、まだ俺が感動している最中だというのに。それに美味しいことなどは食う前から分かりきっていることである。


 「うん、うまいな。」


 「は、はい、良かったです。」


 零も安心した様子で自身の食事に手をつけた。


 美味しいものというのは、簡単に無くなってしまうのが難点であるが致し方ないであろう。昼休憩を1時間程度したところで、またしても俺の書斎にてお勉強である。


 「午後からは、英語をよる予定なんだけど、午前中はどこまで行った?」


 午前中の張り詰めた空気の中で、どの程度まで宿題を消化したのかは把握しておきたい。特に、雅だが・・・


 「私は、数学と理科終わらせたよーー。」


 「マジか、早いな。じゃあ、英語だな。」


 まさか雅が午前中に消化しているとは驚いた。何気にやる気ないだけで頭良いからな、この人。


 「んで、零は?」


 零の場合は、数学と理科が終わってしまえば、宿題は全制覇になるので終わっていないのならば、俺は全力で手伝うつもりでいた。


 「えっと、数学があと少し残ってまして・・・」


 「じゃあ、一緒にやるか?」


 「いいんですか?」


 「あぁ、いいよ。ちょっとこっち来て」


 「はい!」


 零の数学の課題を片付けるために、零を近くに呼び寄せた。具体的には、俺の隣に零が椅子ごと来る形である。今までは、俺の左横にJK2人がいる状態であったが、若干雅が仲間外れ状態になってしまった。



 零は、大変ご機嫌な様子で机というか課題に向かっていた。時折、もはや俺が答え言ってる問題があったが、深くは言わないようにしよう。昼食時に雅から指摘があったように、零の露出が多いので、谷間やピンクなものがチラついていたのはラッキーということで脳内処理を行なった。


 


 午後3時を過ぎたころだろうか、1人のJKが痺れを切らし、沈黙を破った。


 「もーう無理ー、勉強疲れたー」


 案の定、雅であった。しかし、まぁそうなることは読めていた。


 「言ってる割には、結構進んでるじゃないのか?」


 雅の英語課題のページ番号を見るに、終わりは近いように思える。何気に集中力がある人なので、この勢いならば相当早く勉強合宿に終止符を打つことができるのではと感じていた。


 「資格試験問題集が結構重いことに気づいたら、疲れちゃった。」


 雅さんの愚痴が溢れ始めたので、黙って聞くとしよう。


 「まぁ、それはその通りだな。で、どうする?一旦休憩挟むか?」


 「そうする」


 ここで一旦休憩となった。


 「零は、これであと宿題は終わったのか?」


 雅が椅子から立ち上がり、伸びをしている間に零に聞いてみた。雅が喚き出す前くらいに数学の課題を完遂していたからだ。


 「はい、何とかこれで終わりました。」


 とても良い笑顔が俺と雅に向けられている。俺は、喜びたいし、何ならこれからは零と何ら心置きなく休みを謳歌できる気持ち一杯だが・・・。


 「え、あと私だけ・・・」


 必然ではあるが、悲しい事実を突きつけられた雅はそれはそれは悲しい表情を浮かべていた。


 「別にまだ日数あるんだから、雅だって順調と言えば順調だろ。」


 「そうです、そうです。終わりが見えてますよ。」


 すかさず、俺と零でフォローを入れる。我ながら2人で畳みかけるかのごとく発した言葉に嘘はない。


 「とりあえず、休憩だ、休憩」




 半ば強引に休憩タイムへと導いた。

 俺の書斎から一旦リビングに降り、各々休憩である。零が冷たいお茶とお菓子を出してきてくれたのでつまんでいた。


 「零ちゃんって、本当に良いお嫁さんだよね〜。」


 雅は、零の立ち振る舞いを見てしみじみと言葉を発した。


 「家事できるでしょ、美人で可愛いでしょ、肌綺麗でしょ、スタイル完璧」


 「まぁ、それはな」


 雅は徐に、俺の茶のお代わりを持ってきた零を捕まえた。そして、零の背後を簡単に奪うと零の胸を揉み出した。


 「きゃぁ、雅さん」


 「美乳だし、綺麗なピンク色で、いつでもOKなエロい下着だよ。」


 零の胸を後ろから揉んで、スムーズな手の運びでお尻側から下着を確認していた。


 「ちょっと、雅さん、どうしたんですか?」


 「萩原君と零ちゃんは良いお嫁さんだよねって話をしてたの。」


 ほぼ後半はエロに全振りであったが、その通りなので仕方ない。


 「えっ、そんなことは・・・」


 謙遜しているが、口元が緩んでいるあたりが本当に可愛いらしい。


 「そんなことは百も承知だよ。だから、毎日幸せに暮らせてるつーの。」


 俺は少々フリーズしてしまった真っ赤な零の手元からお代わりのお茶をもらう。


 「んで、勉強はどうする?、今日のところはもう終了か?また夜も続行か?」


 正直言うと、この調子だと雅は今日中に終わるのではないかと考えている。


 「うーん、夜も一応かな。てかお泊まりするし」


 「へいへい」


 そして、また夏の日は更けていく。



 「零ちゃんの料理、マジで美味しい!」


 「零ちゃん、お風呂一緒に入ろー」


 「零ちゃん、この前また告られてたでしょー」


 「零ちゃん、ちゃんと避妊してる?ナマでさせると男はつけ上るよー」


 零と雅とのお泊まりは非常に楽しそうであった。

 待て、最後のはどういうことだ、おい。

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